会田誠さんと風間サチコさん

 この土日、東京へ出張に行ってきました。出張中いろいろ見ましたが、一番ずしんと来たのは会田誠さんでした。会田さんは現在、森美術館で大きな個展を開催中で、ごくごく初期の頃の通称「桑田」とか通称「BT」とか、写真でしか見たことのない作品が見られたのは大きな収穫でした。とはいえ、やはり胸にこたえたのは最新作の《電信柱、カラス、その他》でした。


 この作品はおそらくは長谷川等伯の《松林図屏風》を踏まえたもので、等伯の作品と同じく霧の中の情景を描いたもの。ただし松林ではなく電信柱が描かれている。しかもその電信柱は右に左に傾いていて、電線も垂れ下がってところどころ切れています。どうやら大きな地震が起こって、電信柱がメチャクチャになぎ倒された情景らしいのです。


《松林図屏風》
http://www.tnm.jp/uploads/r_collection/LL_187.jpg


 画面のところどころにはカラスが飛んでいるのですが、そのカラスを良く見てみると、人の指や肉片をくわえている。電信柱の下にどんな人体が横たわっているのかは描かれていませんが、想像を絶する地獄絵図であることは間違いありません。飛び交うカラス、濃密な霧の向こうに消えていく電線、その彼方にあるのは? おそらくは原発です。近寄ると身の危険を感じざるを得ないほどの巨大な画面は3.6×10mにも及ぶ、六曲一隻の超大作でした。


 この作品は自分がこれまで見てきたさまざまな作品のなかでも、群を抜いて圧倒的な作品です。会田誠さんの作品は冗談でも誇張でも何でもなく、伊藤若冲などと並ぶ日本の至宝になるでしょう。今回出品された《電信柱、カラス、その他》を見て、私はそのことを確信しました。彼と同じ時代を生きられたことは、本当に幸せなことだと思います。会期は3月末までと長いので、未見の方は是非ご覧になった方が良いと思います。

会田誠 天才でごめんなさい
森美術館、〜2013年3月31日(日)まで
http://www.mori.art.museum/contents/aidamakoto_main/index.html


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 さて、それに負けじとグッと来たのが、風間サチコさんの個展「没落THIRD FIRE」でした。風間サチコさんは戦前の日本の権力構造に迫る大作木版画で知られる方ですが、今回のテーマはTHIRD FIRE、すなわち原子力でした。出品作はわずか三点ですが、いずれも原発震災を生み出した権力構造が、戦前の日本と直結していることを暴きだす大作となっています。


 関西など都内以外の方はご覧になっていない方が多いと思いますが、この作品は京都にも巡回しますので、あえてここでは詳細を記述しません。2月23日〜3月24日に京都市美術館で開かれる「京都版画トリエンナーレ」がその会場です。311以降のほぼ全期間を費やしてリサーチと制作が行われた大作で、豪快な構図は岡本太郎の《明日の神話》を思わせるものでした。

京都版画トリエンナーレ
京都市美術館、2月23日〜3月24日
http://patinkyoto.com/menu/kazama-2/


 いずれも硬派なテーマですが、会田誠さん、風間サチコさんともに、ユーモアを忘れない表現になっているところが、やっぱり素晴らしいと私は感じました。いまはこういう危機的な時代で世の中全体が荒んでいますから、怒りっぽい人が多いのは仕方ないことだとは思います。けれども、そういう時代に向き合うのにもユーモアを忘れないお二方の姿勢は、これは本当に素晴らしいと思います。いずれも見逃せない大作、是非ご覧ください。


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 で、いま思い出したのですけど、会田誠さんの《モニュメント・フォー・ナッシング》という共同制作の作品には、京都造形大で私の授業を取っていた宮内由梨さんも参加しています。彼女は現在ロンドンにいるそうですが、ともあれ成果が人前に出て何より。自分も嬉しかったです。