超大河原邦男展

 というわけで、兵庫県立の超大河原邦男展、プレビュー行って参りました。さすが大河原先生、兵庫県立にこれだけのお花が並んだことって、あんまり記憶にないような……。期待が盛り上がります。



 エントランスにはどどんとシャア専用トヨタ・オーリスが。エンブレムもちゃんとジオン軍のマーク。この写真では若干わかりにくいですが、カラーリングはマットな質感。こだわってます。



 今回の展示のハイライト《1/1スコープドッグ ブルーティッシュカスタム》(2004)。実はこれ、今回の展示用に作ったハリボテなどではなく、まったく自主的に作品として制作されたものなんだそうです。作者は造形作家の倉田光吾郎さん。鉄製で、総重量は2トンほどだそうです。



 こちら、今回の企画を担当した小林公(ただし)学芸員。「私はオタクではありません……オタクというのはこの場合、もちろん敬称ですが」といたって謙虚。やっぱりことガンダムとなると、ふだんは真面目な新聞記者や美術記者の皆さんも、突然「大きなお友だち」に変貌。マニアックな質問が次々に飛び出して、プレス向けツアーは異様な熱気に包まれていました。



 そんな小林さんの組んだ展示構成はかなりアカデミック。ほぼ時系列で大河原デザインをひたすら並べて展示してあります。こうしたメカの基本設定というのは普通は門外不出なのだそうで、それをこれだけ並べた例は前代未聞とのこと。現物を見て初めて知って驚いたのですが、なんと初期のものは鉛筆で描かれていて、消しゴムで消したあと一つない。つまりフリーハンドの一発描きなんですね。なんでも「消しゴムをかけると汚くなるから」というのがその理由で、失敗したらイチから描き直していたそうです。手前はダイターン3の基本設定、驚異的な画力だと思います。



 もう一つ今回の展示では、基本設定を淡々と並べることによって、デザインがどう生まれどう変化したかも克明にわかるようになっています。下の写真手前はガンダムの初期デザイン。ガンダムのデザインはハインライン著のSF『宇宙の戦士』の「スタジオぬえ」による挿絵、そこに出てくる「パワードスーツ」に影響されて始まったことは比較的よく知られていると思います。このもっとも初期のデザインが、安彦良和さんとのキャッチボールでブラッシュアップされて行き、最終的に我々が知るデザインになっていく。その様子が手にとるようにわかります。



 今回の展示や図録では、ガンプラをはじめとするオモチャにもスポットを当てています。こうしたメカデザインに関する議論では「オモチャメーカーの圧力でデザインが変えられて……」といったように、オモチャメーカーが何か悪役のように言われることもままあるのですが、本展ではそうした見方は取っていません。むしろ大河原さんが最初から立体物としてメカを考え、合体、変形の仕組みまでモックアップで考えていたことを裏付ける展示となっています。



 そしてこれが今回の展覧会のもう一つのウリ、本展オリジナルのガンプラです。他では一切売られておらず、しかも何個作られたかは秘密なのだそうで、とにかく会場に早く駆けつけないと売り切れてしまうかも。大きなお友達の皆さん、急ぎましょう!



 「是非ガワラ立ちでポーズを!」……とお願いしたかったのですが、さすがに言い出せず自制しました。初めて見る「生の大河原邦男」はやっぱり凄いオーラがあって、ちょっと怖いくらい迫力あったです。のちのガンダムのデザイナーたちに助言や指導はするのですか? との質問には「私より稼がないように、とは釘を刺しますが(笑)、あとは一切何も言いません」とのこと。何も言わないってのが逆に自信の現れなんでしょうね。



 美術館でこうしたアニメやマンガを扱うときって、ともすれば「美術として見ると云々」とか「もはやアートの域に達していて」とかいったように、「美術目線」をエクスキューズとしてつける場合がままあるように思います。けれども本展ではそうした姿勢を一切取っていません。メカデザインをメカデザインそのものとして、地道に研究すべき対象として取り上げている。そのあたりが凄みのある展示なのだと思います。下はゴワッパー5ゴーダム。



 ちなみに図録は超豪華で、カバーを外すと特製ポスターにもなるという意外なオマケ付き。アニメの設定資料集はこれまでにも数多く出版されてきましたが、メカデザインの原画の画材やサイズ、制作年まですべてをリサーチして網羅した例は珍しいのではないでしょうか。テキストも充実していますので、是非お買い求めになってください。本日より!

レジェンドオブメカデザイン 超大河原邦男
2013年3月23日(土)―5月19日(日)
兵庫県立美術館
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1303/index.html