京都オープンスタジオ2010
美術作家にはアトリエというのが必要で、みんな苦心惨憺しながら物件を探します。たいていは使われなくなった倉庫を改装したりして使うわけですが、最近京都では数名の作家でシェアして家賃を払い、アトリエにするケースが増えているようで、そうしたスペースをそのまま使って展覧会をしよう、ついでだから各アトリエが一斉に時期を揃えてやってみよう、という試みが始まっています。
http://kyoto-openstudio.jimdo.com/
ヤノベケンジさん直系でプロ作家として活躍しているantennaや、期待のかかる新人の谷澤紗和子のような人から、まったくギャラリーに所属していない人、個展未経験の人まで、実に様々。全部はとうてい回りきれないので、昨日いくつかを回ってきたのですが、これはかなり面白いな、と思いました。全てのスタジオを回ったわけではありませんし、主観的なセレクトでもありますが、以下、私が面白いと思った人を幾人かご紹介します。
まずは今回のお目当て、谷澤紗和子。ネイルアートのつけ爪や羽毛を無数に貼付けた、奇怪なオブジェを創る作家なのですが、面白いことにつけ爪を貼付ける土台が、マグロの頭であったり魚の骨であったりします。彼女はドローイングもやっていて、自分の膝にできた擦り傷が治癒していく過程を克明に描いた鉛筆ドローイング、粘菌様の迷路のような文様を持った顔を、金色の紙に凹凸だけで描いたドローイングなど、非常に面白いシリーズを並行して手がけています。春にはまた別途大きなグループ展も決まっているようなので、今後、この作家には注目していきたいと思っています。
http://www17.plala.or.jp/zawako/
それと、村田宗一郎+竹内公太の二人組。こちらも非常に面白くて、今回は二人展形式での展示だったのですが、どうしてこういう作家が所属ギャラリーすら決まっていないのか不可解なくらい面白いです。まずは村田宗一郎。この人は既存の建築物の写真などの上にドローイングを施していって、建築の持つ暴力性をあぶり出そうとしている作家です。インスタレーション作品もあって、こちらは既存のオブジェや木材の断片などを、あたかも都市空間のように組み上げたものになっています。
http://www.tokyo-ws.org/creator/m/post-239.shtml
http://ex-chamber.seesaa.net/upload/detail/image/C2BCC5C4BDA1B0ECCFBA1.JPG.html
いっぽう竹内公太の方も、公共空間に対してインターベンション的なアプローチを行う作家で、ガードレールや鉄柱を金属バットで叩き、その打撃音をサンプリングして「ふるさと」のメロディーを組み上げた映像作品や、野外彫刻にオタク的なキャラクターの顔の絵を貼付けて撮影する写真のシリーズなど、公共空間とは何なのか、誰にとっての公共性で、どこまで個人がそこに踏み込むことが許されるのかを、様々な手法で問うています。全く偶然にアトリエをシェアし、二人ながらに公共空間や建築の暴力性を問う作品を作っていることに、この二人は事後的に気づいたのだと言います。非常にユニークなユニットだと思います。
このほか個展未経験の人ですが、稲垣萌子という作家が、非常に面白い作品を作っていました。個人的に、私は彼女のような作風は非常に好きです。ネット上にはほとんど作品が出ていないのですが、かろうじて下記から数点だけ見られます。
http://www.cwo.zaq.ne.jp/caso/lib/060822stairs2006.htm
レセプションにも参加したのですが、これが非常に混沌としていて、私にとっては非常に心地良い空間でした。商業ギャラリーでは絶対にありえないくらい、ぎゅうぎゅう詰めに人がいて、音楽があって、お酒も飲み放題で、そしてここが非常に大事なのですが、アートの持っている可能性、オルタナティブな表現とその受容の可能性を、みんなが熱く追求して、口から泡を飛ばしながら議論したり、踊ったり、酔っぱらったり、ナンパしたりしていました。助成金やコレクターのおカネがなくとも、大手ギャラリーや美術館のサポートがなくとも、アーティスト(しかも大半は無名の人たちです)自身だけの力でこれだけのことができるというのは、本当にすごいことだと思います。
この感じ、何かに似ている、何だろう? と思ったら、そう、70年代のアングラ劇団の打ち上げのノリ、もしくは80年代のパンク/ニューウェーブのインディーズのノリです。DIYで滅茶苦茶で熱くて面白くて、みんな若くて無名でマニアックで、やってることは結構スゴくて、メジャーレ−ベルのものとはまた異質の表現がバンバン出てくる。本当に面白い空間になっている、と思いました。今月末までやっているので、是非回ってみてください。面白いよ!