松原正武「循環」@芦屋画廊

阪神間では珍しいコンテンポラリー専門のギャラリー、芦屋画廊で、「循環」と題された面白い展覧会をやっています。基本的には写真展なのですが、土中に数ヶ月間埋められて、剥離したりカビが生えたり、鉄や銅などのサビを浮かしたりすることで、いずれも「痛んだ」写真ばかりの展覧会なのです。



ふつう私たちは、何か貴重な一瞬を、少しでも長く手許に留めたいと思って写真を撮ります。恋人の写真でも家族の写真でも、どこかに行った記念写真でもそうです。いわば写真とは「時間を止めるための技法」であって、経年変化をどれだけ食い止めるかが勝負になるはずです。ところがこの一連の作品は、土中に埋めるなどの手段によって、あえて経年変化を早めてあるのです。いわばそれは「反写真」であると言えます。

かつてはおそらく彫刻や絵画も、こうした「時間を止めるための技法」として生まれたもののように思いますが、絵画や彫刻は「時間を止めるための技法」の王座を、写真に譲り渡してしまいました。制作から500年、1000年経った絵画がどのような状態になるかを、私たちは知っています。そして、常に修復し続けるという営みがなければ、絵画や彫刻が成り立たないことも知っています。では、写真はどうなのでしょう? 幾世紀も経て伝わる写真の姿は、まだ誰も見たことがありません。ダゲレオタイプの写真が生まれたのは1839年のこと。それから、まだ200年も経っていません。この一連の作品は「反写真」であると同時に「写真の未来」を黙示するものでもあるのです。

この作品群を作ったのは、松原正武さんという方で、ふだんはカメラのほかデザインも手がけておられるそうです。松原さんの作品は、写真という奇妙な芸術ジャンルが、決して見まいとして目を背けているものを指し示しています。そうしたさまざまなことを考えさせてくれるという意味で、非常に見応えのある展覧会だと思います。31日まで、是非ご高覧を。

3月12日(金)−31日(水)
松原正武「循環」 写真+微生物作品
芦屋画廊
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