ハルヒ、聖地巡礼、ゲニウス・ロキ

 来月上旬に出る『ユリイカ涼宮ハルヒ特集のための聖地巡礼論を、たったいま入稿した。ハルヒシリーズの舞台は西宮市、自分が住んでるのはその隣りの芦屋市で、ほぼ全部が勝手知ったる地元ばかり。今回は電車やバスに乗ったり登山したり、お茶したりケーキ食べたり買い物したりと、聖地巡礼を思いっきり満喫しながら書いたものだ。歩きながら考えるのって実に楽しく、本当にやってて楽しかった。


 ゲニウス・ロキとでもいうのだろうか、こういう地霊のようなものと対話しながら書く作業は、自分の性にわりと合っているのかもしれない。そういう原稿の注文が来ると、すごく楽しいし触発される。webや本、美術館とはまた違う、偶然の出会いがあるのが楽しいのかもしれない。好きこそものの上手とはよく言ったもので、実際、自分はどういうわけか昔から、こういうフィールドワーク的な仕事が多いんだよな。


 何を隠そう、いまでこそ美術評論などという温和なものを書いているが、もともとの自分の書籍デビューは、事件の現場を歩き回ってのルポものという、実に物騒な代物だった。以来、なぜか現場を歩いての記事が結構多く、特にユリイカに書く時は、どういうわけか毎回そうだ。京都を歩き回りながら書いた伊藤若冲論とか、大阪、阿倍野の地理と絡めた中村佑介論とか。あとは森村泰昌論も、やっぱり関西との結びつきを書いたものだった(このうち森村論だけは、ややブッキッシュな構成だったが)。


 幕末の絵師「絵金」の本を出したときは、確かのべで一週間以上、高知の赤岡町に滞在して書いた。『TH』に書いた伊勢神宮論も、一泊二日で現地を歩いて書いたものだ。そういえば以前『TH』に連載していた『呪術対美術』という美術論では、大阪府の古墳群を歩くところから話が始まっていた。いま考えたら美術論としてはちょっと風変わりなものかもしれない。


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 ユリイカハルヒ論に話を元に戻すと、ハルヒは既にさんざんファンの人々が聖地巡礼をやっていて、あのシーンのロケ地はここ、このシーンはここという同定が、凄まじい緻密さでネット上に展開されている。自分の原稿もそうした「先行研究」がなければ、とうてい書きえなかったものだ。どのサイトで何を調べたか忘れてしまったので、ここにサイト名をあげられないのが大変恐縮なのだが、実に多くのサイトを参考にさせていただいた。雑誌には書けなかったが、ここに記して感謝に替えたい。


 とはいえ、あとから同じことを自分が真似しても仕方がないので、自分は「裏・聖地巡礼」とでも言おうか、あるいは「可能世界の聖地巡礼」みたいな、ちょっとパラレルワールドめいたことを書いている。詳しく書くと面白くなくなるので、是非店頭でお手にとってお読みになっていただきたい。ちなみにハルヒシリーズの最新刊は、今月25日に発売。なにせとんでもない変則的ポストモダニズム文学の域に突入しつつある本シリーズの最新作だけあって、かなり楽しみ。初回限定版を予約したが、発売日が待ち遠しい。 『ユリイカ』のハルヒ特集ともども、どうぞお楽しみに。


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