「大英博物館 古代ギリシャ展」

 「大英博物館 古代ギリシャ展」っての、昨日見てきた。いろいろ思うところはあったけど、古代オリンピックの全裸で走って競技してる状況の再現Vってのがあって、これは結構すごいなと思った(作品そのものの印象が、おかげでちょっと遠のくくらい)。オリンピックは競技そのものはもちろん大事だけど、それ以上に若者の裸体の品評会にもなってたらしく、いわば出会い系運動会とでもいうべき場所だったらしい。もちろん、男性と男性の出会いの場だ。逆に男女の営みは厳しいコントロールに置かれていたという。


 体力的に強い、外見が美しい、性的に魅力がある、内面的に正しい。現代社会では別々の事柄だと思われていることが、古代ギリシャでは全部同じことだった。強い人は美しく、セクシーな人は正しいという考え方だったらしい。現在から見るとちょっと不思議に見える。ギリシャ時代にできた彫刻のプロポーションって、その後も人体の理想像とされて、ルネサンスの時代に再浮上するし、折に触れて古典的な身体像として言及される。でも会場を覗いてると、そうした古典的な美しさに収まらない奇妙な人体像もちらほら目につく。


 たとえばディオニュソスの像がそれで、後ろから見ると柔らかな腰やお尻の曲線で、完全に女性と勘違いしそうになるんだけど、前に回ると、ついている。胸も心なしか膨らんでいるし、おなか周りもちょっとふわっと膨れていて女性のようだ。思春期の少女みたいな体型。ディオニュソスってお酒の神様で、ワインの飲み方を人間に教えた神様とされている。それがどうしてこんな両性具有的なイメージになるのか、ちょっと不思議。もちろんいろんなバリアントがあって、これはその一つに過ぎないのだろうけど、この奇妙な美しさは印象的。


 そのほか、ちょっと文字では表現しにくいような人体像もちらほらとあって、それが「真善美」を兼ね備えたような肉体の周りで、それを浮き彫りにするかのように並んでいる。こういう身体像はあまり「ギリシア的」とは呼ばれないが、確かに同時期に存在していたのだ。いまほとんど同時代の美術を見に行けてないので、リハビリも兼ねてゆる〜く見ようと思った展示だったのだけれど、正当とされる美のフリンジ部分には、結局はどんな時代でも奇想的なものがあるんだな、と思い知らされた展示だった。