菊畑茂久馬展、於・福岡市立美術館

 これはかなりすごい。前衛芸術という括りを超えたダビンチ的な万能人。作品制作はもちろん、理論家としての著述、テレビ番組の構成、市内の大手百貨店「岩田屋Z-SIDE」のデザインまで、実に多岐に渡る活躍をしてきた大作家の回顧展。作品としては初期の非常に呪術的なオブジェ「奴隷系図」が有名。これはいろんなところで幾度も展示されているので、ご覧になった方も多いのではないか。土俗宗教の信仰対象のような異様な作品。

奴隷系図
http://bit.ly/q8jc6U


 菊畑の作品はMoMAにも収蔵されていて、国際的にきちんとした評価を得た人でもあるが、そればかりではない。きわめて早い時期に戦争画研究に取り組んだ人でもあるし、先日「世界記憶遺産」となった炭鉱画家、山本作兵衛をいち早く評価したことでも知られる。菊畑は美学校の講師も務めていたが、本展の会場には美学校の生徒とともに模写した山本作兵衛の作品も多数展示されている。また、現在も制作を続ける大型のタブローも見事。日本的な叙情に回帰した近年の作品は、作家としての円熟を感じさせる。

山本作兵衛
http://bit.ly/qxFL5r


 同時開催の常設展では、菊畑が所属していた前衛グループ「九州派」と、具体美術協会や「反芸術」グループの活動を振り返る。九州派は現存作品が少ないので、これは非常に貴重な展示。こういう展示を収蔵作品だけで組めてしまう福岡市美術館は本当にすごい。


 このほかにもコレクションがとにかく充実していて、こんな地方都市でどうしてこれだけ集められたのかと驚嘆する。黒田清輝の師匠にあたるラファエル・コランから、いま堂島ビエンナーレで話題のアニッシュ・カプーアまで、実によく集めている。ちなみに常設展の入り口を飾るのは中ハシ克シゲの手になる小錦のブロンズ像、ラストを飾るのはやなぎみわのエレベーター・ガールだ。


 菊畑茂久馬展は残念ながら巡回がない。これは本当に残念なことだ。作品そのものもすごいのだが、一個の思想家としての風格を持つこの人が、九州でしか知られないのは非常に残念。是非ご覧いただきたい。8月28日まで。

「菊畑茂久馬回顧展 戦後/絵画」
福岡市美術館、8月28日まで
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