「世界制作の方法」国立国際美術館

 というわけで、先日「世界制作の方法」という、すごいタイトルの展覧会に行ってきました。非常に難解なコンセプトを持つ展覧会なのですが、私なりにごく単純化して言ってしまうと、単体の立体作品を展示するのでなく、空間全体を使った美術展示を行う「インスタレーション」というジャンル、つまり美術館内に小さな「ミニ世界」を創り出しちゃうアートの展覧会です。たとえば、こんな感じ。





 これは金氏徹平さんの《白地図》という作品なのですが、初雪が降った翌朝の町のようすを連想させますね。全体のかたちは小さな街の風景によく似ているけど、その町の一つひとつを作っているのは、実は私たちが日常で見慣れた生活用品ばかり。ゴム風船、文具、駄菓子、そのほかそのほか。いわば百均の棚にありそうなものを並べただけですが、こうして組み上げて白い粉を上から振りかけたとたん、都市の雪景色に変貌してしまうわけですね。ほかには、オモチャのプラレールを使って空間を作っていく「パラモデル」という二人組の作品。



 なんだかまだ展示作業中に見えますが、パラモデルの作品は会期中もどんどん増えたり変わっていったりするので、そのための足場が組んであるというわけです。ちなみに手前に写ってるのは某新聞社の方、なんだか楽しそうですね。こういうオモチャっぽい展示だけに、みんな童心に帰るのかもしれません。このように金氏さんは日用品、パラモデルはオモチャという身近な素材を使って、展示空間に小宇宙を組み上げていく作家なわけですが、いっぽう展示空間でなく、電脳空間の内部に小宇宙を創り出す作家もいます。こんな感じ。



 これ、動画でないとわかりづらいのですが、パソコンのキーボードの変換キーが押されっぱなしになっていて、書きかけのテクストのなかにある「かみ」という言葉が、すさまじいスピードで変換され続けているのですね。タイトルは《ゴットは、存在する》、作者はエキソニモという二人組。ほかにも同じ室内には「かみ」とか「ゴット(ゴッドではないところがミソ)」の存在を情報空間内に探り、「ゴットのいる世界」を再構築するおいう作品になっています。ついでにいうと、この作品は《ゴット・イズ・デット》という作品と対になっています。パラモデルとかエキソニモとか、複数作家のユニットが多い点も今回の展示の特色かもしれません。あと、私が個人的にすごいな、と思った作品がこちら。





 わかりますかね、これ。半透明のポリエチレンシートで巨大な山脈の模型のようなものが作ってあるのですが、観客はその山脈の内部から、その姿を見ることになる。つまり反転した透明な地形のなかを歩くような体験をするわけですね。山脈を吊り下げているのは黒い色の接着剤。そういうものが世の中にはあるんだそうです。これも見ようによっては黒い雨が降り注いでいるように見える。なにもかもが逆転した、不思議な世界の反転像です。作者は大西康明さん、作品名は《体積の裏側》。わかりやすい。もうひとつ、こんなのも紹介しておきましょう。



 これ、展覧会場をはみ出して、ふつうは従業員の方が透通路のような場所が作品化されてるんですね。廊下に散った紙吹雪が、ときどき風に吹かれてパラパラと舞い上がる。作者は木藤純子さん。木藤さんはこのほか何点か、こうした会場の外へ浸食していくような作品を作っています。つまりは「美術館の内/外」という概念を解体して再構築する、美術館内でもあり外部でもあるような世界をかいま見せる作品ですね。


 ちなみにこの展覧会は非常に図録が面白くて、表紙からいきなり本文が始まる。しかも表紙と裏表紙で、それぞれ異なるテクストが載っていて、片方には現代の宇宙論が、もう片方には中世のスコラ哲学が紹介されているんですね。で、その真ん中に出展作家たちの過去の作憂いが載っている。まだちゃんと読めていないのですが、非常に面白い構成になっています。

「世界制作の方法」国立国際美術館、10/4-12/11
http://www.nmao.go.jp/exhibition/index.html