「描く仕事」は「隠し事」 兵庫県立ピサロ展とコレクション展について

 本日は兵庫県立のコレクション展を見てきました。いま同館で開催中のピサロ展は、本日入場者が5万人を超えたそうで、たまたま蓑館長が5万人目の入場者の方に記念品を渡す場面に出くわしました。担当学芸員は江上ゆかさん、本当におめでとうございます。


 さて、ピサロというと「ああ印象派の……」くらいで、正直あまり意識したことがなかったのですが、じっくり眺めて見るとなかなか妙な画家だと思います。この展覧会で初めて気がついたんですが、ピサロはメインのモチーフをものすごく小さく描いたり、わざと何かの背景にしたりするんですね。下の作品とか典型的なんですが、一番目だっていいはずの教会の尖塔が、塀とか木立の向こうに隠れている。ピサロはやたらとこういう感じの作品を描いてて、立て続けに見てると「一体何が描きたいんだ?」と妙な気分になります。



《エラニーの教会と農園》


 画家というのは「描く仕事」ですが、同時に「かくしごと=隠し事」でもあって、目に見える画面のなかに、たいていは目に見えない何かを隠している。ピサロという人は比率としては、描く仕事より隠し事の方が多い人だったんじゃないかという気がします。ピサロユダヤ人でしかもアナキストだったそうで、そんな彼が農家で隠されて見えない教会を描くというのは、一体どういう心境だったのかと考えると、非常に味わい深いものがあります。ゆる〜い印象派の仮面の下の、得体の知れないピサロの素顔。そんな謎めいた一面が見える展覧会だと思います。

カミーユピサロ印象派−永遠の近代」
兵庫県立美術館、8月19日まで
http://bit.ly/RA5ejj


 それで、同じ兵庫県立でやっているコレクション展なのですが、これもやはり「隠し事=描く仕事」系の展示があって面白いんですよ。兵庫県立は金山平三さんという、非常にオーソドックスな近代洋画家の作品をいっぱい持ってるのですが、今回展示されてる作品が実に不思議なんです。《習作(男裸像)》という白人男性のヌードなんですが、なぜか「その部分」だけが剃毛してあるんですね。最初は自分の見方がおかしいのかなと思ったんですが、どう見ても剃毛してる。非常に不可解な一枚です。


 金山平三にはもう一枚、《無題(半裸の男)》という白人男性のヌードもあるんですが、こちらの方はもっと凄くて、下半身だけが裸になってる。で、やっぱりその部分は剃毛してあるんですね。しかも着てるシャツをめくり上げてアゴでとめ、下腹部を露出させている。しかもそのお腹がまた、風船のような太鼓腹なんですね。ほとんど「羞恥プレイか?」という構図です。


 金山平三って黒田清輝のお弟子さんで、日展の顧問もやったような超保守本流の画家で、正直いままでまったく意識したことがなかったんですが、これを見て初めて「なんだこりゃ!」と思いました。何か禍々しい欲望が透けて見えるんですよね、画面の向こうに。晩年までこの絵は手許に置いて飾ってたそうで、一体何を考えながら生活してたんだろうと不思議になります。彼の家を訪問してこれを見た人もかなり戸惑ったと思うんですが、どうなんでしょうか。


 このほか兵庫県立では森村さんのレクイエムシリーズや榎忠さんの新作、それとこないだ京都国立近代で回顧展のあった井田照一さんの版画などが新しく収蔵されてて、とても見応えのあるコレクション展になっています。美術展ってついコレクション展見ずに済ます方多いと思うんですが、この機会に是非。11月4日まで。

「コレクション展2」
兵庫県立美術館、11月4日まで
http://bit.ly/NcveyB