西脇行き_西脇市岡之山美術館

 横尾忠則さんの故郷、西脇市に行ってきました。神戸からだといったん加古川まで出て、そこから加古川伝いにまっすぐ北上していったところに西脇はあります。ここには岡之山美術館といって、横尾さんの作品を収蔵した美術館があるのですが、その最寄り駅はJR「日本へそ公園」駅。こんなところです。



 なーんにもないです。単線なのでホームも片側だけ、向こうは川が流れるだけ。コンビニも喫茶店も何にもない無人駅。逆にすごくほっとします。都会の生活は要らないものが多すぎますね。ですので、行かれる方はお弁当は必携。私もお弁当を買って駅のベンチでいただきました。ちなみに加古川線は単線で、時間によっては1時間に1本も電車のない時間帯もあります。なので忙しい方はクルマで行った方が良いかも。電車で行くのも楽しいですけれどもね。ちなみに駅舎は磯崎新設計です。



 なんでここが「日本のへそ」なのかというと、文字通り日本のちょうどど真ん中にあるから。北緯35度の線と東経135度の線が、ここでぴったり重なっている。クロスする場所にはちゃんと石碑が建っています。



 で、駅の真正面に建っているのが、この岡之山美術館。やはり磯崎新設計で、機関車を象ったものであると同時に、ギリシャ建築風の列柱がエントランスを飾っています。横のところにくっついているのは、ピラミッド型の「瞑想室」。歴史参照性の遊びに満ちた、80年代のポストモダン建築。横尾さんの本当にごくごく初期、コンクールに出せば必ず一等賞だったという子ども時代の作品から、神戸新聞にアマチュアとして登校していたカット、西脇市在住時代の手描きポスターや地元商店の包装紙などを収蔵しています。展示では兵庫県立などとも連携していて、のちのポスターやアクリル画なども展示されています。じっくり見ると小1時間くらいはかかります。



 収蔵品とともにここの大きな目玉になっているのが、このセラミック陶板の作品《Lisa Lyon in Nishiwaki, April.18.1984》。ボディビルの初代女性世界チャンピオン、リサ・ライオンを西脇に招いて、横尾さんが制作したものです。リサ・ライオンは写真家のロバート・メイプルソープのモデルを務めたことでも有名。『横尾忠則自伝』によると、一時期は横尾さんとニューヨークで一緒に生活してたそうですね。画面下の方の稲妻や渦のように見えるのは、おそらく加古川の岩と川の渦なんでしょうね。そのなかにリサ・ライオンが立っている。

 


 陶板の真ん中にはめられている、リサ・ライオンの写真。全身に銀粉を塗って、まるで彫刻のようになったリサ・ライオンが、加古川線の線路の上に立っています。地方性と国際性の不思議な同居、シュール。



 実際ここでは県内外の作家の個展をやったり、地域の方向けの美術講座をやってその作品を展示したり、「サムホール大賞」という隔年開催のコンクールをやったりして(審査員には横尾さんも)、活発な活動を展開しています。館長は来住しげ樹さんといって、ご自身も作家さん。新聞紙上にエッセイなども発表しておられます。取材では横尾さんの少年時代の貴重なお話をいろいろ伺うことができました。ありがとうございました。


 横尾さんは西脇から神戸へ、神戸から東京へ、東京から世界へと出て行った方ですが、そんな横尾さんの展覧会をここでは年に2回のペースで開催しています。ここではその足跡を辿ることができると同時に、西脇の方が世界と接することのできる「窓」にもなっています。規模こそ小ぶりではありますが、地域の芸術拠点としてはお手本のようなところだと思います。

西脇市岡之山美術館
http://www.nishiwaki-cs.or.jp/okanoyama-museum/