藤野可織さん『おはなしして子ちゃん』

 遅くなりましたが藤野可織さん『おはなしして子ちゃん』読了。彼女の作品の中でいちばん面白いし、作家としてのホンネをぶつけた作品かと思います。ストレートで勢いがあり、作品のイメージがくっきりしている。

藤野可織『おはなしして子ちゃん』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062186306


 中編が多かった藤野さんですが、今回は短編集。こんなお話もできる、こんなお話も、あんなお話もと、嬉々としてアイデアを取り出してみせるハットトリック。2枚組のアルバムを出してまだ足りず、4曲入りシングルをつけて発売した頃のスティービー・ワンダーのよう。表題作と「アイデンティティ」はほぼ作者の地声によるステートメントと考えて差し支えない作品かと思う。これこれこれ、こういうのを待ってたのよ。ツギハギでも醜くてもいいじゃない。ある意味ティム・バートン監督の諸作品にも通じるメッセージを感じる。


 芥川賞受賞作の『爪と目』の姉妹編と思しき作品「ホームパーティーはこれから」も収録されていますが、SNSなどでの自己露出願望の虜になった女性というテーマは、本書収録の短篇の方がむしろ明快だし、楽しんで書いてるようすが伝わってくる。何が嬉しいかって、創作意欲がかつてなく高まってる空気が伝わってくること。これは本当に嬉しい。私もホルマリンに漬かりながら、次の作品を待っています。お話! お話! お話!