ダビデ像はパンツを履かせるべきなのか

大英博物館春画展へのリアクション—日本開催困難は「奇妙」なことなのか?」
大英春画展チームの一人、石上阿希さんによる発表。大学院生Meroeさんによるまとめ。
http://dotob.hateblo.jp/entry/2014/04/04/022818


 日本人の裸体への禁忌意識ってものすごくて、裸体表現に関しては春画に限らず、非常に皆さん苦慮しておられるようです。実際、私が仄聞する範囲でも、クレーマーみたいな方は少なくないです。一度、海外のコンテンポラリーダンスの来日公演で女性が半裸になったとき、猛抗議をしている観客の方を見かけました。べつに特にエロティックなシーンでなく、地獄に堕ちて野獣化する女性を描いた場面だったのですが……。


 あまり詳しく書けないけど、関東の某大都市の美術館でも、私は似たような事例を目撃しています。これは舞台裏での話なんですが、依頼制作をしてもらっている海外の作家に、美術館が裸体表現を避けるように懇願していた。これは本来的にはあってはならない話であって、立場的には雑誌の誌上かなにかで糾弾しようと思えばできたんですが、美術館側の苦悩もよくわかる話で、結局どこにも書きませんでした。海外の作家はぼやいていましたが、まったくいたたまれない話です。


 こういう拒否反応はいまに始まった話ではありません。1901年に黒田清輝の《裸体婦人像》が警察によって腰布で覆われてしまった「腰巻事件」はつとに有名。けれどもなんと2012年になっても、東京メトロがやはり黒田清輝の裸体画を使った、車内吊り広告を拒否する事件が起こっています。表現の現場に官憲が土足で踏み込むことはさすがになくなったけど、民間レベルでは100年間とさして変わらないわけですね。実際2013年には、島根県で公園に設置されたダビデ像、ビーナス像に「下着をはかせて」と、町民から苦情が出る騒ぎがあったほどです。


 かくも厳しい日本の裸体事情ですが、そのくせ銭湯方式の集団入浴はごく普通のことですし、混浴の温泉だってあちこちにある。黒田清輝の裸体画を拒否した東京メトロも、平気で下品な週刊誌の中吊り広告は認めている。日本人の裸体観ってどうなってるんだろうと思います。こうした不思議な「日本の裸体禁忌のあり方」については、実は今度出る単著『真夜中の博物館』のなかで、ロン・ミュエックという彫刻家に絡めながら論じています。日文研みたいにちゃんとした研究ではないけれど、一つの視点として裸体論に貢献できれば、と思っています。

『真夜中の博物館 美と幻想のヴンダーカンマー』
アトリエサード刊、予価2500円+税、5月上旬刊行予定
http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfyji500/