プライベート・ユートピア、藤安淳さん、榎忠さん、堀尾昭子さん、水内義人さん

 おとつい24日は久々に展覧会巡りをしてきました。まずは「プライベート・ユートピア」、伊丹市立美術館。ブリティッシュ・カウンシルというのは日本で言うと国際交流基金みたいなものかと思うのですが、世界中に英国の文化を発信する非営利団体。自国の美術作品を一定所蔵しているのですが自前の展示施設はなく、その替わり世界各国の美術館に積極的に貸し出しを行っている。


 写真はサラ・ルーカスの作品。ルーカスはセルフポートレートによって、旧来のステレオタイプな「フェミニン」なイメージをぶちこわしてきた人ですが、会場にはその友人であるトレイシー・エミンの作品などもあり、フェミニズム・アートと言っていいのかな、そういう作品が一定入ってるのが面白かったです。ほかにも面白い作品はいっぱいあったので、別途ご紹介するかもしれません。ご担当は藤巻和恵さん、私が行ったのは最終日の前日だったのですが、駆け込みでも見られてよかったと思います。


 本展は東京ステーションギャラリーからの巡回。伊丹のあとは高知県立美術館(11月2日〜12月23日)、岡山県立美術館(2015年1月9日〜2月22日)にも巡回しますので、それぞれの地域にお住まいの方はお楽しみに。

「プライベート・ユートピア ここだけの場所
 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在」
2014年4月12日(土)ー5月25日(日)
伊丹市立美術館・伊丹市立工芸センター
http://www.britishcouncil.jp/private-utopia/about


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 お次は藤安淳さん個展「empathize」、サードギャラリーアヤ。藤安淳さんは双子の写真の連作を撮り続けている作家さんで、実はご自身も双子です。左が作家の淳さん、右がその双子の弟さん。藤安さんはご自身と弟さんを撮った連作もあるのですが、今回の展示は双子の他人を撮ったもの。藤安さん曰く、双子でない人が双子を撮ると、たとえばダイアン・アーバスの有名な双子の写真みたいに、双子の「瓜二つという奇妙さ」にスポットが当たってしまい、各自の個性は消えてしまう。そうではなく双子のそれぞれが持つ個性に焦点を当てたかった、と。似てるけど違う、違うけど似てる。


 明日27日からは藤安さんを含む若手写真家三人のグループ展「neo-824」が、サードギャラリーアヤで開催されます。上の作品を見て気になった方は是非ご覧になってください。

「empathize」藤安淳
2014.5.13(火) - 5.24(土)
サードギャラリーアヤ

 
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 三軒目は榎忠さん個展「PATRONE-35」、port gallery T。「PATRONE=パトローネ」というのは、写真のフィルムが入った金属製の缶のこと。榎さんの作品「PATRONE」シリーズは、この缶を大量に集めてプレス機で圧縮した作品で、さまざまなメーカーの色とりどりのフィルム缶がギラギラ輝く不思議なオブジェ作品です。最初に今回の展覧会タイトルを見た時は、てっきりこのオブジェが並ぶとばかり思っていたのですが、実際の会場にはそれとともに写真作品が並んでいました。下がそのようすです。


 手前の写真に写っている、サングラスをかけたイカツイ男性は、若き日の榎さんご本人です。この写真だとわかりにくいのですが、実はこの榎さん、頭の半分は長髪で、頭の半分は丸刈りになっている、つまり「反刈り」状態なんですね。これは《半刈りでハンガリー国に行く》という榎さんの代表作でもあるパフォーマンス作品で、この写真はこれまでそのときの「記録写真」として、さまざまな会場に展示されてきたものでした。あくまで記録写真なので、誰もが作品とは見なさず、あくまで資料の一部と思っていた。その写真が今回は、ちゃんと作品として展示されているのです。


 パトローネはデジカメの普及によっていまや絶滅寸前の存在ですが、そのオブジェとともに展示されることで、この展示全体が「写真とは何か」を問うものになっています。また作品の一部には、手荷物検査のときにフィルムが浴びたX線のあとが生々しく記されています。これは当時、共産圏であったハンガリーに行ったことによって、単なる観光客の手荷物にも厳重な検査が行われたからですが、これも銀塩写真という近代技術の宿命を生々しく物語るものになっています。本展は非常に大きな注目を集めていて、会期は延長となっています。榎さんのファンである美術関係の方々だけでなく、写真文脈の方にも是非見ていただきたい展示です。必見!

榎忠「PATRONE-35」
Port Gallery T
2014年4月29日[火・祝] - 6月11日[水]
http://www.portgalleryt.com/exhibitions/enoki_chu.html


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 四軒目、堀尾昭子さん個展、ギャラリーヤマグチクンストバウ。堀尾さんは具体美術協会のメンバーだった方。ご主人の堀尾貞治さんも具体美術協会のメンバーでしたが、堀尾さんは凄まじいスピードで個展を開催して生方で、作風もエネルギッシュ。昭子さんはそれとは対照的に、極めて抑制された厳しいミニマルな表現。会場には静謐が漂っていました。撮影は自粛。

「堀尾昭子」
ギャラリーヤマグチ クンストバウ
2014年5月10日(土)ー31日(土)
http://www.g-yamaguchi.com/artists/horio/2014.html


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 五軒目、水内義人さん個展「Light Archives -PUBLIC PUBLISH PUB- Yoshihito MIZUUCHI 」、fukugan gallery。写真は複数の店のコロッケを油取り紙の上に置いて、油の広がり方をコレクションした作品の記録。水内さんは2001年にキリンアートアワードでデビューした「奇才」という言葉がぴったりの人で、榎忠さんにも通じるパフォーマティブかつ観客参加型の作品が多い。


 今回の展示はこれまでの水内作品のアーカイブ。美術館の展示さながらにMP3プレーヤーのイヤホンガイドが用意してあり、作家本人によるガイダンスを聞きながら作品の記録を見ることができる。専用のフォルダを購入すると、展示されている写真をスキャンして、自分だけの「図録」を制作することもできる。通して見ると、意外なほどにコンセプチュアルなその作風を理解することができる、かなりまっとうな回顧展になっている。


 水内さんの作品は実にさまざま。居酒屋形式で100円ほどでパフォーマンスを購入してもらうもの、海の中に椅子やテーブルを設置して、干潮になるとカフェになるというもの、ネギに画材を結びつけ、ネギが伸びていく力を利用してドローイングを描くものなど多種多彩。ただし若干スカムなものが多いのが困ったところで(苦笑)、排泄物や唾液などを素材に使うことがある。海外での個展や滞在制作の経験も多く、今後期待される作家だと思います。

水内義人「Light Archives -PUBLIC PUBLISH PUB- Yoshihito MIZUUCHI 」
fukugan gallery
2014年5月12日(月)- 2014年5月25日(日)
http://www.yoshihito-mizuuchi.net