ノスタルジー&ファンタジー

 昨日は国立国際で今日から始まる「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」の内覧会に行って参りました。出品作家は横尾忠則さんを筆頭に、北辻良央さん、柄澤齊さん、棚田康司さん、淀川テクニック、橋爪彩さん、須藤由希子さん、小橋陽介さんほか。企画は安來正博さん。



 やっぱり目立っていたのは横尾さん、さすが大ベテラン。見慣れているはずの作品が多かったんですが、セレクトのせいかなんなのか、うわっという感じがある。写真は今回の展覧会のための新作三点。ウォーホル、ピカソ、キリコがテーマになってて、なるほど美術とは先行作品へのノスタルジーから始まるものだったか、と納得させられます。個人的には一番左、キリコ風にアレンジされたY字路の作品が一番好みでした。


===============================


 以下少し思ったことをいくつか。かつて現代美術といえば時代の最先端を行く前衛だったのに、そうかノスタルジーがいまの美術なのか、と虚を突かれる思いのした展覧会でした。幾人かの作家の作品では、文字、あるいは文学がキーになっているのが面白いところ。作中に文字が頻出することで知られる横尾忠則さん、作中に自作の詩や作家の肖像が現れる北辻良央さんはその双璧かと。



 上の作品は北辻良央さんの《時の室》(2014)。手前のどーんとした箱のようなものは、実は茶室のような作りの和室。外壁は本棚になっていて、そこに並んでいるのは芥川や太宰、チエホフなどの古い全集本。内側の壁にも芥川や太宰の顔が描いてあるといった具合です。私もこうした作家たちの本は思春期の頃に読んだものですが、いまや文学という存在そのものが懐古の対象なのでしょうか。だとすると少し寂しい気もしますが、そうした寂しさそのものがノスタルジーの情なのでしょうね。


===============================



 さていっぽう、ついに国立国際まで来たか、という感じの淀川テクニックは、キリンプラザ以来折りに触れいろんな場所で見てきましたが、これまでに見た中で一番良い展示だったと思います。上の作品は「ゴミの壁」。ところどころに実は穴が空いていて、顔を出して記念写真が撮れるようになっているという作品で、タイトルは《Let's become garbage!(みんなでゴミになれる!)》(2014)。是非会場でトライしてみてください。今回の展示の良いところは、生命とか人間もいつかはゴミになる、というメッセージがほのかに感じられるところ。いわば現代のヴァニタスと言えるかもしれません。



===============================


 面白いのは須藤由希子さん。どこか懐かしい住宅街の風景画なのですが、よく見ると消して描き直した後があちこちにあって、風景へのノスタルジーと同時に「描くこと」そのものへのノスタルジーが重なっている。思い出の中の光景を描いているような、そんな感じを覚えました。



 しかし未来より過去の方が輝かしいというのはどういう時代なんでしょうね。ちょっと前には昭和30年代ブームがありましたし、時の首相は「日本を取り戻す」と仰っている。東京駅も古い形に建て替えられましたしね。いまは過去の方が新しく、未来は古くさいのかもしれません。

「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」
国立国際美術館
http://www.nmao.go.jp/exhibition/