姫路城、お菊井戸、初代宮川香山

昨日は姫路に行ってきまして、世界遺産の姫路城を見てきました。さすが世界遺産、とにかくでかい。ちょっとした登山並みの運動量で、下は当然ながら土なので、靴は結構汚れます。あまりよそ行きの靴は履いていかれませぬよう。女性はヒールの高い靴はお辞めになった方が良いでしょうね。

城内には有名な「お菊井戸」というのがあって、これは播州皿屋敷のお菊さんが「出る」という言い伝えのある井戸なのですが、結構深くて『リング』の貞子がいた井戸みたいです。あ、逆か。ちなみに井戸の底にはお賽銭がぎっしり。お賽銭が一枚、二枚と数えて、さぞやお菊さんもお喜びのことでしょう。

で、なぜこの時期に行ったかというと、いま姫路市立美術館で、初代宮川香山の作品が展示されていたからですね。初代宮川香山というのは幕末から明治にかけて生きた陶工で、横浜に窯を開いた人。「高浮き彫り」と呼ばれる非常に特異な技法で作られる陶器で知られておりまして、あまりにリアルすぎるその描写力は、ほとんどグロテスクの域に達している。たとえば、こんな感じ。

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どうですか、スゴいでしょ。あまりにスゴいので万国博覧会に出品されて話題を呼び、全世界の絶賛を浴びたわけです。もうひとつくらい作品を挙げておきましょうか。よく見ると描かれたモチーフが、花瓶から飛び出しているのがわかると思います。

http://kozan.blog.so-net.ne.jp/2009-09-18-1

私思うに幕末から明治にかけての時期というのは、日本の写実表現が、ある意味で極限まで行き着いた時期であったのではないかと思います。同じ時期を生きた人に、こちらは結構有名な松本喜三郎という人がいますよね。松本は「生き人形」で有名な人で、やはり幕末から明治を生きた人です。彼の作品はこんな感じ。これもまたグロテスクなまでのリアリズムです。

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当時はこうした作家が多数いたようで、見世物やからくり人形の制作を手がけていたようなんですね。宮川香山の異様なリアリズムは、こうした見世物的な人形のリアリズムと、ある意味で並行した現象のように感じられてなりません(松本喜三郎1825年生まれ、宮川香山1842年生まれと、世代はかなり離れていますが)。

今回の展示は「岐阜県現代陶芸美術館所蔵 日本近代陶芸のあゆみ」というタイトルがついています。日本の伝統的美意識というのはワビサビ重視、特に陶芸ではそれが顕著ですから、いまひとつゲテモノ扱いされてきた、という歴史がありますが、近年はそれも見直しが進み、今回の展示では日本の近代陶芸の幕開けを飾った人物として、宮川香山の作品が冒頭に展示されている。私はこれは非常に興味深いし、意義深い展示だと感じました。

http://kozan-makuzu.com/

宮川香山は横浜の人ですから、関東方面の人は横浜の宮川香山記念館に行けばいつでも見られるわけですが、関西在住だとなかなか見る機会がありません。なので、関西在住でこういう表現の好きな方は、是非ともこの機会に一度実物を見ておくことをお勧めします(一点だけしか展示がないのが玉にキズですが、ほかの作品も面白いですよ)。ちなみに、姫路市立美術館のサイトはこちら、会期は6月20日までです。

http://www.city.himeji.lg.jp/art/

岐阜県現代陶芸美術館所蔵 日本近代陶芸のあゆみ」
平成22年4月24日(土)〜6月20日(日)
ちなみに出品作家は右の通り。加藤五輔、初代宮川香山、加藤友太郎、瓢池園、香蘭社、精磁会社、深川製磁板谷波山、富本憲吉、荒川豊蔵、金重陶陽、河井次郎、五代加藤幸兵衛、濱田庄司、三輪休和、加藤土師萌、三輪壽雪、塚本快示、加藤卓男、岡部嶺男、河本五郎、藤平伸、清水卯一、井上萬二、加守田章二、徳田八十吉、若尾利貞、鈴木蔵、森野泰明、柳原睦夫、加藤孝造、安藤日出武、原田拾六、栗木達介、岡田裕、木村芳郎、三輪栄造、安食ひろ、島田文雄、十五代樂吉左衞門、三輪和彦、兼田昌尚、久保田厚子、前田昭博、八木明、三原研、加藤委

うち、私のお勧めは塚本快示、岡部嶺男、徳田八十吉、木村芳郎。このへんのことはまたいずれ。