クリエイターズ・ネスト、堂垣園江さん/栗田咲子さん個展「養いもの浄土」

 昨日は心斎橋の「リズール」という文学バーで〈クリエイターズ・ネスト〉という催しにお邪魔してきました。作家の堂垣園江さんの自作朗読とトークを拝聴したのですが、自作解題みたいなものは結構すぐに終わってしまい、後半は中南米の危ない国々の社会事情のお話に。警察や軍隊が強盗に早変わりしてしまう話、バスジャックが日常で、身代金の相場が一人いくらと決まっている話などなど、すごく面白い話がいっぱいでした。


 美術畑のアーティストトークはよく伺うのですが、大体真面目一辺倒で、作品のコンセプトとかテーマとかの話題に終始することが多い。それはそれで大変面白いのですが、文学畑の方は本当に自由だなあと思いました。最後は好きなイケメンのタイプとかそういう話でしたしね。美術畑にもこういう自由なノリのトークが、もっとあっても良いのかもしれません。


 ちなみに「リズール」は作家の玄月さんがやっておられるお店で、この日は会場の受付が藤野可織さんと谷崎由依さん、客席には吉村萬壱さんと円城塔さんがおいでになるというゴージャスな布陣。コンクリ打ちっぱなしで綺麗なお店でした。

バー「リズール」
大阪市中央 区南船場4−11−9
https://bitly.com/jgchG8


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 それと昨日は栗田咲子さんの個展「養いもの浄土」@FUKUGAN GALLERYに行ってきました。栗田さんは2009年に国立国際美術館で開かれたグループ展「絵画の庭ゼロ年代日本の地平から」で注目を浴びた方です。 栗田さんはこれまでモノの大小のバランスを崩す「デペイズマン」という手法や、異なる時間を同じ画面に描く「異時同図」、下塗りの線やキャンバスの地色を隠さない、途中で放棄したような描法で知られてきた作家でしたが、今回は実に真っ当な近代的絵画に回帰しています。


 ゼロ年代を通じて近代絵画のルールを片っ端から破るかのような作品を描き続けた栗田さんが、こうした近代的絵画に回帰すること自体がもはや「事件」だと私は思いますが、色調もこれまでになく落ち着いた鈍い色合いで、筆触で表現された動物の毛の質感なども見事。ただし、もとがそうした「絵画への疑義」を示してきた栗田さんだけに、そこはかとなく漂う「絵画への悪意」のようなものは健在。不良学生がわざと一番上まで制服のボタンを止めて凄んで見せているような、慇懃で丁寧だがどこか不穏な気配が漂う展覧会になっています。


 栗田さんがこうした「近代回帰」に走ったのは、先だっての震災以降のことだそうです。ここには被災地の姿も津波も描かれてはいませんが、圧倒的な破壊の中であえて秩序ある表現に戻った栗田さんの選択は、311以降の表現のあり方として非常に興味深く思えます。もちろんこうしたヤヤコシイ理屈は忘れて「単にのどかで、ちょっと意地悪な動物の絵」として楽しんでもらうのも、大いにありだと思います。7〜10日は要予約、7月23日(土)まで。絵画というシステムそのものへの基礎論的格闘を続ける作家の個展、是非ご覧下さい。

栗田咲子個展「養いもの浄土」
会場:FUKUGAN GALLERY
大阪市中央区西心斎橋1-9-20 4F
会期:2011年7月2日(土)- 7月23日(土)
休日:日月火 *7,8,9,10日は予約制
時間:13:00-19:00
https://bitly.com/kfUA5B