口枷屋モイラさんについて

@1098ma  お隣CAVEで展覧会中 閨秀2.0 地下に入ってまっすぐ目に入るのが、深紅のベルベットに飾られた豪華な額、の中の口枷したスク水ランドセル女子の写真。物販のアヒルの口枷は即日完売した模様。。


 金曜日、京都の二条城で開催中の「観◎光」という展覧会を見てきました。初めて実物を見る木村了子さんの作品は、とても威風堂々としてて良い感じでした。ちなみに同じ二条城前にある京都芸大ギャラリー「akcua」では《共創のかたち》という展覧会を開催中で、オープンソース・デザインなど、企業の法務や知財の人が見ても面白そうな内容になっていました。


 実は「閨秀2.0」のモイラさんの展示も、このへんの問題意識から組み込んだんですよね。でもあの展示は「単なるコスプレ」と誤解されてることが多くて、樋口さんもこういうの好きですねえみたいな反応が多く、ちょっと残念なんですよ。通常のコスプレはいわゆる「版権もの」、つまり誰かの作ったキャラクタの格好をするものだが、彼女はそうじゃないんです。彼女は自分が作ったオリジナルのキャラクタに扮していて、逆にそこから二次創作のイラストを描く人が現れ、それを彼女自身がアンソロジーとして出版している。普通のコスプレとまったく逆なんです。二次元を三次元が模倣するのでなく、三次元を二次元が模倣してる。どうもコミケとかに行けばああいう人が大量にいるんだろうと思ってる方が多いみたいなのですが、三次→二次、しかもオリジナルキャラという時点で、実はきわめてレアケースなんですよ。


 で、その中心となるのが口枷を作りつつ、自分に口枷をはめている「口枷屋モイラ」というキャラクターで、主体化と隷属の二重性をそのまま演じているようなキャラクターなんですね。しかもこのキャラクターを愛好しているファン層は、男性よりも女性の方が多数を占めるんです。「私もモイラちゃんみたいになりたい」という女性が大量にいて、彼女の口枷を争って買っていくんですよ。しかもモイラさんは別名義で「お嬢様学校少女部」というのも作ってて、こっちも二十代の女性が嬉々として入部して、彼女に写真を撮ってもらっている。


 彼女は男の欲望するステレオタイプな装い(スクール水着にセーラー服に口枷)に身を包んでいますから、美術の人には彼女の作品が男性受けのするポルノグラフィックな写真に見えてるのかもしれないけど、彼女は男の欲望を先取りして擬態してるだけであって、実際にはその逆なんです。彼女が演じてみせているのは「男の欲望を先取りして擬態することで、男性の欲望を操作する主体になりたい」と願う、女性の欲望の方なんです。で、コミケとかゴスの世界に興味のある女の子たちはその転倒を直感的に見抜いて、彼女の作品を買っていくわけです。


 つまり彼女の作品には、二次元、三次元の主客転倒だけでなく、キャラクターのジェンダー論的なまなざしの転倒も内包されていて、両者が重なりあっているんです。つまりここには代表=表象(representation)のねじれがある。どういうことかというと、表象しているのは男の欲望の対象なのに、代表しているのは実は女性の欲望の方なんですね。しかもそこに主体=隷属のねじれの問題や、さらには版権の問題とかオープンソースの問題とも重なっている。考えれば考えるほどコンセプチュアルなんです。


 このへんのことは彼女の作品を愛好するオタク系の人々はとっくに了解済みのことなので、いちいち解説するのは非常に野暮ったいし恥ずかしいのですが、以上のような状況に鑑み、あえて愚直に説明いたしました次第。これからご覧になる方は、どうかそのあたりを念頭に置いて是非もう一度ご覧頂きたく思います。よく見てみてよ、面白いから。