兵庫県立「いのちの色 美術に息づく植物」

 今日から始まった兵庫県立のコレクション展、とても良いです。タイトルは「いのちの色 美術に息づく植物」。美術作品の生命力が本当に芽吹いて花を咲かせ、大樹に成長していくためには、本当に長い時間が必要です。この展覧会はそのことを、まざまざと実感させてくれる展示になっています。


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 入ってすぐのところに展示されてるジム・ダインの作品《植物が扇風機になる(5点組)》(1973-74)。ジム・ダインはウォーホルなんかと同時代のポップアートの人ですが、手前の植物がどんどんモーフィングして扇風機になってしまう。巧まずして「自然の植物から人工の製品へ」という人間の歴史を描く、興味深いイントロダクションになっています。


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 やっぱり植物をテーマにした展覧会だけあって、非常に力強い作品が多いです。幾つかの部屋が用意されているのですが、この部屋は特にそうした生命感が強く感じられる展示です。向かって右の手前は松井紫朗さんの《Budding Bag》(1985)。巨大な花の彫刻です。80年代の「関西ニューウェーブ」と言われた時代、巨大な立体作品が次々に登場した時代の作品ですね。

 そのうしろは菅井汲さんの《陽のあたる森》(1968)。菅井さんはもともと阪急電鉄のデザイナーで50年代に渡仏、世界的な評価を得た画家です。

 うしろ左は日系ブラジル人の工藤ジェームズさんの《無題》(2007)。私は初めて知りましたが結構有名な方のようで、日本語で検索してもほとんど何も出てこないのに、”James Kudo”で検索するといろいろ出てきます。パッと見ると非常に華やかな画面ですが、近くで見ると塗りのテクスチャーが凝ってて非常に面白いです。


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 福田美蘭さんの作品《淡路島北淡町ハクモクレン》(2004)。神戸の震災のときに撮影された焼け跡の中の樹木を、コラージュで再生させた作品。福田さんはちょっとトリッキーな作品が多い方ですが、トリックだからこそ見せられる希望もある、という力強さを感じます。偶然ですが、のちの3・11の津波に耐えた、陸前高田の一本松を思い起こさせますね。


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 で、最後の部屋は暗くて写真が撮れなかったのですが、河口龍夫さんの《関係―種子》という作品が展示されています。この作品はカンヴァスの上に蓮の種子を貼り付けて、鉛で覆った作品です。蓮の種子はもともと生命力が強く、何千年もあとになってから芽を吹くこともあるそうですが、この作品ではそれをさらに鉛で覆っています。

 ところで、鉛は放射能を遮断する金属でもあります。この作品は3・11以前に制作されたものですが、あの恐ろしい原発震災を経たいま改めてこの作品を見ると、そこに秘められていた無言のメッセージが、改めて発芽するかのように感じられます。


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 ある意味で美術作品というのは、それ自体が一つの種子のようなもので、制作から何年も何十年も、あるいは何百年も経って、やっと明らかになる意味があります。そうした美術作品の持つ生命力を教えてくれるという意味で、この展覧会は非常に優れた展示になっていると思います。

 美術作品が芽吹いて大樹に成長するには、私たちの孫子の代までの時間が必要で、そのためにはコレクションするという行為、美しいものを私たちがのちの世代に残し、伝えていく行為が必要になります。コレクション展はなかなか注目されませんが、本当はこうしたコレクション展こそが美術館の、一番本質的な生命線じゃないかなと思います。非常に力強い展示です。会期も長いですので、是非。


2013年度 コレクション展穵 
特集 「いのちの色 美術に息づく植物」
2013年 3月9日(土)〜6月23日(日)
兵庫県立美術館
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_1303/index.html