工藤哲巳の「インポ哲学」について

「報道に載せにくい言葉がある・・・では、これならいかが?」
あなたの肖像—工藤哲巳 回顧展公式ブログ
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 国立国際美術館では現在「あなたの肖像—工藤哲巳 回顧展」というのを開催中なのですが、同展の作品タイトルなどに頻出する「インポ」って単語がどうもまずいらしく、なかなか公報面で苦戦しているらしいんですね。工藤さんは50-60年代に「反芸術」というムーブメントを巻き起こしてパリに赴き、一大スキャンダルを巻き起こして注目を浴びた美術作家で、近年ではアメリカでも注目が高まっている作家。その功績は世界が認めたものなんです(後日加筆:こういうレトリックの陳腐さは重々承知の上、まあいちおう書いときます)。


 とはいえ、やっぱり「インポ」の連発には、大メディアなんかは二の足を踏むんでしょうね。しかも同展は一部で「ちんぽ祭り」なんて揶揄されるほど、男性器の彫像、模造が並んでいる。やっぱり良識ある方々からのご叱正を恐れてか、なかなか掲載には踏み切れないのかもしれませんね。でも私はまったく逆に、この展覧会はそうした良識ある方々にこそ見ていただきたい、と思ってるんです。


 日本画家の木村了子さんによると、西洋美術の男性の裸体って、だいたいアノ部分は収縮時の状態で描かれてるらしいんですね。ダビデ像なんかが典型ですが、基本的に勃起状態で描かれることはないんだそうです。ところが日本はそうじゃない。日本では男性器を、歌麿でも何でも、見事な勃起状態で描くんだそうです。それが日本美術の伝統なんだと木村さんは仰るわけですね。


 ところが工藤哲巳の描く男性器はどうか。これが見事に全部うなだれている。しかもそのタイトルには「インポ哲学」なんて言葉が踊るんですね。これは木村了子さん的な視点で見ると、日本的な男性器の描き方の伝統を逸脱してるわけです。つまり工藤は男性器描写における西洋のスタンダードを、初めて日本に導入したわけですね。なので「ちんぽ祭り」というのは誤りで、あくまで「インポ祭り」でなければならん、と私は主張してるのですが。


 工藤哲巳はグロいグロいとよく言われるし、確かに実際グロいわけですが、それだけじゃない。工藤作品ってのは日本人が否認し続けてきた、男性の情けな〜い姿を真正面から見つめた、ある種の人生悲喜劇でもあるわけです。そうした一種の男性批判、勃起信仰批判として、フェミニスト諸氏にも是非ご覧いただきたい。そんなわけで良識ある人々にこそ見ていただきたい展覧会、それが工藤哲巳のインポ哲学こと「あなたの肖像—工藤哲巳 回顧展」なんですね。