小企画 「奥田善巳展」@兵庫県立美術館

 全然話題になっていない展覧会ですが(なんと記者発表に出たのは私一人)、兵庫県立の奥田善巳展、これは60〜70年代の現代美術に関心のある方は見といた方が良い展示なんじゃないかと思います。というのも奥田さんは、あの読売アンデパンダン展に出品していた人で、のちには伝説的な関西の美術作家集団「グループ〈位〉」のメンバーに。さらにのちにはこれも伝説的な展覧会「トリックス&ビジョン」(もの派の出発点になったことで名高い展覧会)に出品した人なんです。



 《日曜日のないカレンダー1》(1963)。この当時としてはちょっと大人しい表現かもしれませんが、よく考えるとかなりトリッキーな考え方が仕込まれてる作品です。支持体の上に印刷物を貼り、さらにその上からちぎった紙を貼ったというもの。技法としてはパピエコレなんかと一緒ですが、覆い隠してしまうという否定性が組み込まれている。引き算の表現ですよね。のちの「もの派」の「作らない」という否定性、ミニマルで禁欲的な表現に通じる何かが感じられます。



 《数字3》(1969)。油彩なんですが、コップの輪郭線と数字の「3」が、重ねて描いてある。西宮大谷に収蔵されてる作品で、たぶん何度か見てるような気がするんですが、改めてよく見て考えると、実はかなりトリッキーな作品だということに気がつきました。というのも、コップの輪郭線の方は、実は線を描いてあるんじゃなくて、逆に塗り残してあるんです。図と地が反転してる。で、数字の「3」はしっかり描かれてるんですが、コップを象ってる線は「3」の上を走ってるんですね。おまけにこの「3」はスケッチブック様の四角の上に描かれてて、これレイヤー的にどうなってんのかって考え始めるとかなり実はややこしいんです。写真だと質感が伝わりにくいんで、実物見てじっくり考えてみてください。



 その後70年代には、いかにも「もの派」的な立体作品を作っておられたようなんですが、80年代頃からはペインティングに回帰する。このあたりもニューペインティングの流行と軌を一にしてて面白いんですが、黒一色の地の上に単色の絵の具でペイントしていくという手法のシリーズを、延々描き続けることになる。今回の展示はこの時期の作品をメインにしているんですが、奥田さんは「CO」と題されたこのシリーズを、なんと千枚以上も描き続けてるんですね。このシリーズは微妙に変化し続けていくんですが、本展ではその大まかな足取りを一望できるようになっています。70年代の色のない世界から一転、カラフルな筆触の世界が広がります。



 《CO-892》(1996)。なんかすごいでしょ。この時点でもう15年以上、こういう単色の絵を描き続けている。よく見ると青い線だけじゃなくて、黒い絵の具の線が青い線の間を走るように、縫うように走っています。ちょっと織物に近い発想なんですが、本当の織のようにレイヤーを整然と交差させるのではなく、絵の具だけに相互に混じりあった部分もある。絵の具による絵画である、というところは手放してないんですね。


 このシリーズはいっけんものすごくよく似てるんだけど、一点一点実は微妙に発想が違ってる。そうした微細な差異に目を凝らすのもいいし、華やかな筆触の乱舞に身を任せて楽しむのも良いし、いろんな見方ができる展示だと思います。また、反芸術からニューペインティングまで、さまざまなムーブメントに関わった作家が何を考えていたのか、その足跡を辿るという意味でも面白いです。それと、いま兵庫県立のコレクション展では、こんな作品もかかっています。



 高松次郎さん《脚立の紐》(1963-1985)。高松さんが盛んに紐の作品を作っていた時期のもので、冒頭に書いた読売アンデパンダンの頃の作品です。このすぐ横には赤瀬川原平さんの梱包の作品もあって、これとあと中西夏之さんの作品があれば、伝説の反芸術グループ「ハイレッドセンター」の三氏の作品が揃い踏みなのですが、ともあれお二方の作品は見られるわけですね。それともう一つ、こんなものも出てまして。



 榎倉康二《無題》(1980)。いわゆる「もの派」の作家のひとりであった榎倉康二さんの作品です。つまり小特集で紹介されている奥田善己さんと同時代の作品を見ることができるわけですね。そんなわけで数は決して多くはないですが、奥田さんの背景となった60〜70年代の美術をきっちり見られるようになってますので、是非ご覧くださいませ。

2013年11月23日(土・祝)〜2014年3月9日(日)
兵庫県立美術館 コレクション展(2013年度コレクションⅢ)
「 小企画 「奥田善巳展」」
「コレクション名品選 美術の始まるところ」
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_1311/index.html