山田実「EHO-恵方(東北東)N35°00′22″E135°46′09″」

 素材になっているのは北山杉、つまり京都市の北部で採れる地元の杉です。赤い切れ込みの入った方向は恵方巻でお馴染みの「恵方」、つまりその年に吉とされる方向を表しています。恵方は毎年変わりますが、今年の恵方は東北東。つまりすべての赤い色は、東北東を向いているわけです。側面の色の帯は、色の塗られた年輪が側面にどう現れているかを表したもの、と言えばいいでしょうか。



 会場には水の音が流れているのですが、これは実は北山で録音した水の音なのだとか。ギャラリーは東山にあって、北山は目と鼻の先。シンプルな作品ですが、人工の場所と自然の場所、年輪に記された時間の積み重なりと、毎年方角の変わる「恵方」の問題など、さまざまなものが一挙に作品の中に示されます。



 ポートフォリオを拝見すると、ふだんはホワイトキューブと見なされて各自の場所性を無視されがちなギャラリーの場所性をあぶりだす作品が多く、虚を突かれます。よく考えるとまったく無味無臭の空間などあるはずもないわけで、空間には必ずその場所固有の歴史や位置関係、クセがある。ホワイトキューブはそれを「見えないことにします」という約束に過ぎないし、その歴史もたかだか半世紀ほどしかない。そのことを非常にクリアに意識させてくれる作家さんだと思います。



 恥ずかしながら不勉強で、山田さんの展示は今回初めて見たのですが、70年代末から制作を続けてこられたベテランで、京都府京都市立動物園など多数の場所にパブリックコレクションもある方だそうです。非常に面白い作家さんなので、是非会場ではポートフォリオもじっくりとご覧になってください。面白いですよ。

山田実「EHO-恵方(東北東)N35°00′22″E135°46′09″」
ギャラリーはねうさぎ
2014年7月22日(火)---7月27日(日)
12:00---19:00(日曜日17:00 / 月曜休廊)