生存のエシックス@京都国立近代美術館_その1

ごく乱暴に一言でいえば、「アート宇宙へ行く」。そんな変わった展覧会が、いま京都国立近代美術館で開かれています。展覧会のタイトルは「生存のエシックス」。いちおうグループ展なのですが、通常の美術作家以外に、さまざまな研究機関や企業とのコラボによる作品が展示されているのが特徴です。

http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/epo_100104.html

この作品は《宇宙庭》といって、宇宙空間で栽培するための、いわばミニ自然環境。作品の制作は主に美術作家が担当したのですが、実際にこの作品はロケットに積まれて宇宙にまで運ばれ、宇宙飛行士の野口聡一さんによって栽培されました。会場ではその映像が流れていて、鑑賞者は美術館に来たのに、なぜか宇宙ステーションの映像を見るという、奇妙な体験をすることになります。

この展覧会は宇宙に限らず、通常のアートの枠組みを超えた、環境や医療、生命などの分野の人々との、コラボによる作品が中心になっています。作品の多くはそうした背景込みで理解する必要があり、ぱっと見ただけでは意味がよく分からないものが多いのですが、説明を聞くとなるほどなるほど、となります。たとえば、下の作品。

この作品は《光・音・脳》と名付けられているのですが、鑑賞者はCTスキャナのような装置の中に入って鑑賞します。円筒状の装置の壁には、LEDでさまざまな光が投影されるのですが、その際に鑑賞者の脳の血流量を、リアルタイムで測定される仕組みになっています。鑑賞者が退屈して不快になると、装置はほかの色を投影するわけですね。鑑賞者が退屈して不快にならない限り、LEDの色はそのまま。また退屈してくると、別の色を投影するという仕組み。この装置もやはり大手の電機メーカーと、共同で作られていますが、下の日記でご紹介した「SZ」というユニットの、森公一さんの作品です。

http://d.hatena.ne.jp/higuchi1967/20100207

そういうわけで、この展覧会は作品そのものの見た目のインパクトはさして重要ではなくて、どういうシチュエーションで何のために作られたか、といったプロセスの方が面白いし、重要な展示になっています。会場にはかなり豊富な人数のボランティアが配置されていて、鑑賞者はボランティアに説明を求めることができます(というか、話を聞かないとさっぱり意味が分からない作品の方が多い)。また、自由にメモを取ったり撮影したりできる上に、参考資料も多数展示されていて、自由にコピーをとることができます。さらに図録は切り離し自由のファイル形式になっていて、会場には編集用の小部屋まで設置されている。下の画像は、その作業部屋の様子です。

つまり、この展覧会場全体が、一種の観客参加型の研究所のようになっている。そういうわけで、この展覧会は普通の展覧会とは違って、ちょっと長めの時間を会場で過ごさいないと、全貌を把握できないようになっています。私の場合は1時間半いましたが、どうにかこうにか全体像をチェックし終えた、というところでタイムアップ。実に様々なことを考えさせられます。なので、ご覧になられる方は、是非2〜3時間は取っていただきたいですし、私自身もこの展覧会の話を、ここでしばらく続けようと思っています。とにかく、実にいろんなヒントの詰まった展覧会です。


京都市立芸術大学創立130年記念事業協賛
Trouble in Paradise/生存のエシックス
平成22年7月9日(金)〜8月22日(日)
京都国立近代美術館
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2010/381.html