「コレクション展II 特集展示」兵庫県立美術館

 今日から兵庫県立美術館で、新収蔵品のコレクション展が始まった。目玉はやっぱりヤノベケンジさんの作品だろう。兵庫県立は2009年度の動員が100万人を突破したこともあり、ヤノベさんの大作をはじめ、いくつかの現代美術作品を購入した。今回はヤノベさんの作品だけでも5点を展示するミニ個展のような展示となっていて、見応えは充分だ。


 美術ファンならご存知の通り、ヤノベさんはずっと原子力や核の問題をテーマにしてきた作家。兵庫県立がヤノベさんの購入を決めたのは震災より以前だそうだけど、いま関西では兵庫県立でヤノベ作品を中心にした収蔵品展が開催され、東京でも山本現代で個展が開催されている。状況が否応なく、ヤノベさんの動向に注目を集める方向に動いている、という感じがする。

ヤノベケンジ個展
「アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ」
山本現代
http://www.yamamotogendai.org/japanese/exhibition/index.html


 兵庫県立での展示のうち、一番目を引くのは《Ferris wheel》という作品。Ferris wheelというのは「観覧車」のことで、文字通り観覧車をモチーフにした作品だけれど、そのモデルになったのは、あのチェルノブイリ無人のまま放棄された観覧車だ。放射能汚染に曝されて廃物になった観覧車を、ヤノベさん自身がチェルノブイリに行って目撃し、その観覧車をモデルにして制作したもの。今回の展示の会場には、ヤノベさんが実際にチェルノブイリに行って撮ってきた、現地の写真も展示されている。巨大な廃物になった観覧車を前に佇むヤノベさんの写真だ。


 その横にはやはり放射能汚染で廃墟になった、チェルノブイリの保育園の写真も展示されている。そこではヤノベさんが荒れ果てた保育園の床に散乱する、壊れた人形を手に取る姿が写し撮られている。保育園の壁には太陽の絵が描かれているが、ヤノベさんはこの太陽の絵をネオン管で再現して《Ferris wheel》に取り付けた。

コレクション展II 特集展示
『おひろめのあいさつ〜新収蔵品紹介」
2011年7月16日(土)〜11月6日(日)
兵庫県立美術館
http://t.co/c0aGJTZ


 ほんらい地球上に存在してはならないはずの、小さな太陽の暴走から起こった悲劇。その悲劇の村の保育園の壁に、偶然描かれていた小さな太陽。その太陽が再び《Ferris wheel》に取り付けられて、ゆっくりと休むことなく動いている。観覧車のカゴにはヤノベさんが「トらやん」と呼ぶ人形が乗り込んでいるが、トらやんはチェルノブイリでヤノベさんが見つけた人形の生まれ変わりなのだという。絶望と希望がないまぜになって、二重奏を奏でるかのようなその光景。展示室内にはガイガーカウンターの音が、思い出したように響き渡っている。


 ヤノベさんの作品は「縁」や「偶然」で展開していくことが多いのだそうだ。今回の展示のタイミングも、まったくの偶然である。ご本人も理詰めで考えるより、自分の直感に誠実に行動し、あとから再検証をしていくことが多いらしい。いろんな意味の偶然が重なったこの展示、いまこのタイミングで見ておきたい。下記インタビューとも併せて、是非。

ヤノベケンジ/インタビュー」
『clippin Jam』
http://www.clippinjam.com/volume_55/cf_top.html