高田智美《たくさんの手紙たち—マグダラからマグダラへ》

 桜宮のアートコートギャラリーで年1回開催されている若手のグループ展「Art Court Frontier 2012」に、高田智美さんが出品しています。高田さんは私が昨年キュレーションしたグループ展「閨秀2.0」に出品してくれた方です。



 タイトルは《たくさんの手紙たち—マグダラからマグダラへ》。床に敷き詰められた無数のタイル、その上におかれた古びた椅子、背後の壁面には無数の写真が貼られたインスタレーション。パッと見るとカラフルですが、なんだかよくわからず、謎めいています。



 壁に貼られた写真をよく見ると、和装の女性が描かれた絵画が写っています。ここに描かれているのはいわゆる遊女。実はこの写真群、いずれも遊郭や赤線地帯の内装、外観を捉えたものです。全国各地の遊郭を高田さんが足で回って、自分で撮影してきたものです。場所は東京から沖縄まで、相当の広範囲に渡っており、実はそうした場所へのリサーチ活動も同時並行で行っています。



 タイルは遊郭を象徴するモチーフ。当時タイルは「水洗いのできる衛生的な建材」として遊郭には必ずと言っていいほど使われたもの。高田さんの作品には必ずと言っていいほど登場してきます。



 写真に混じって壁に貼られた便せんには、全国各地の遊郭の所在地の名前が記されています。タイトルにある「マグダラ」というのは、聖書に出てくる「マグダラのマリア」というキャラクターのことを指します。この人物はもともとイエスの復活を目撃した唯一の人物で、使徒の一人としても大きな活躍を見せていることが外典などに記されています。が、その後なぜか娼婦であったことにされてしまい、売春婦の守護聖人としても崇拝を集めていきます。絵画ではイエスから「我に触れるな」と一喝される場面や、涙を流して悔悛する場面などがしばしば描かれ、西洋美術のファンであれば一度は目にしたことのあるモチーフです。



 こうした遊郭の、赤線の跡地は次々に取り壊され、「なかったこと」にされようとしています。撮影された場所のなかには現在も営業中の場所も含まれていますが、女性である高田さんがそうした場所にカメラを携えて踏み込むのは大変なことで、文字通り体を張った作品となっています。多くの方に見て欲しい作品です。7月21日(土) 14:00には高田さんと、毎日新聞文化部の手塚さや香さんとのトークもあり。是非ご覧下さい。

高田智美《たくさんの手紙たち—マグダラからマグダラへ》
「Art Court Frontier 2012」
アートコートギャラリー
2012年7月13日[金]〜8月11日[土] 日・月・祝休
トークショー:7月21日(土) 14:00-16:00
http://www.artcourtgallery.com/acg_news.html