「中原浩大 Drawings 1986-2012 コーちゃんは、ゴギガ?」
「中原浩大 Drawings 1986-2012 コーちゃんは、ゴギガ?」(伊丹市立美術館)見てきました。先日「80-90年代の美術史が空白だ、批評家はなにしてる」とのお叱りを受けたのですが、中原さんというミッシングリンクの存在はデカイんですよね。なにせある時期以降、ほとんど展示をしなくなった方なので、何か書こうにも手も足も出ないという感じだった。
中原さんという人は不思議な人で、80年代の早い時期から目の覚めるような作品を幾つも作って「次の時代はおおよそこうなる」という予言を、それこそドローイングのようにササッと描きあげて、そのままいなくなってしまったような方なんですよ。なので、まずは中原さんの足跡を辿らないと、80-90年代の話って始まらないのに、その中原さんがなかなか展覧会をやってくれない。なので、そこのところでつっかえて、何を取っ掛かりにしていいのか戸惑う感じがずっとありました。それが今回の展示でやっと明らかになったわけですね。
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実際にはここ数年、中原さんはぽつぽつとドローイングなどを展示しておられたのですが、これがまた茫漠としてたんですよ。なぜかツバメの飛ぶようすをずっと写真に撮って記録したり、三角形のベニヤ板でできたジャングルジムみたいなものを作ったり。私にはその脈絡がよくわからなかった。これは中原さんを批判してるのではなくて、単に私には難しすぎて意味が分からなかったということです。何か「点」だけがぽつんぽつんと示されていて、全体の脈絡がわからなかったんですね。
今回の展示はそんななかで、約四半世紀分の中原さんのドローイングが展示されていて、ようやく中原さんの思考の航跡みたいなものが、おぼろげながら見えてきた。でも今度は情報量が凄まじく多い。なんというかアイデアの洪水なんですよね。今度は論点が多すぎてさばけないんです。つまり「やっとミッシングリンクが見つかった!」と喜んでたら、そこではバージェス頁岩みたいな爆発的進化が起こってて、一体これをどう系統づけたらいいのかよくわからないという、そんな感じ。しかもこれ、ドローイングだけの展示なんですよね。まだまだ発掘は途上の段階にある。
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でもホント、ドローイングだけを見ていても、今につながる要素は実に多いんですよ。オタクとか子ども性とか、「絵画ってなんだ」っていう問いかけとか。あと、意外にデカイのは色彩の問題。なにせ「もの派」の時代ってほとんど色がないので、あのカラフルさは衝撃だった。それと「やわらかさ」。「線」っていうものを前面に出した作家という意味では異常なくらい早いし、線の持つリズムの問題とかも先取りしてるし。本当に語るべき、考えるべき部分が多い。
そういう意味で、ある意味オタク文脈の人にも見て欲しいし、なにより若い人に見て欲しい展示になっています。いまの若い人がここから何を受け取るのか、すごく興味があるし面白い、可能性の大きな展示だと思います。11月4日まで、是非ご覧を。
コーちゃんは、ゴギガ? −中原浩大Drawings 1986-2012ー
2012年9月22日(土曜日・祝日)〜11月4日(日曜日)
伊丹市立美術館
http://artmuseum-itami.jp/exhibition/current_exhibition/1202/
それと、今日は「大岩オスカール展 Looking my World(ギャラリーほそかわ)、「青木万樹子展/shuffle」(CAS)も見たのですが、長くなりそうなので後日。どちらも面白かったです。