阿部登さん、ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』

 今日は音楽と人生について考えさせられることが二つほどあったので、ちょっとここに。一つは音楽プロデューサーの阿部登さんについて、もう一つはアメリカの作家、ジェニファー・イーガンの小説『ならずものがやってくる』について。

エンドウ ミチロウ ‏@michiro60
1970年代から現在までの大阪の音楽シーンを作り上げ、その中心居て、「春一番コンサート」をプロデュースし続けた阿部のぼるさん。60歳の還暦目前にして亡くなられてから約2年が経った。そして「阿部のぼる自伝」がとうとう出版された。
https://twitter.com/michiro60/status/253923227301203968/photo/1


 阿部さんがお亡くなりになってたということを、不覚にも今日初めて知った。阿部さんは山下洋輔さんのマネージャーを振り出しに、大塚まさじさんなど多数のミュージシャンのマネジメントを手掛けた方。ある意味、大阪の音楽シーンを作った伝説的な人で、最近は大西ユカリさんのマネジメントをやっておられた。私は偶然一度だけ、ミナミのロックバーで隣りに座ったことがある。緊張してお酒の味もよくわかんなかった。タフで優しい感じの方だった。ご冥福お祈りいたします。


 そういえばあの頃は自分は、まだミュージシャンになるつもりでいたんだった(全然無理だったけど)。ちょうどいま私はジェニファー・イーガンの『ならずものがやってくる』を読んでいるのだけれど、これが元パンクスたちの話で、プスプス刺さるせつなさがある。 ある者はバンドマンとしては全然だめだったがプロデューサーになって成功し、ある者は本当のパンク=クズになってしまい、ある者は突然アカデミズムに目覚めて文化人類学者になり、といった具合。本当に人生を考えさせられる。

ジェニファー・イーガン
『ならずものがやってくる』
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 この物語は一話につき一人の人物の視点で書かれていて、四半世紀を前後して書かれる複雑な構成になっている。日本の作家だと吉田修一、映画界だとタランティーノなど、多視点で描かれる物語がこの10年ほど非常に多いけど、本作の一部は文章でなくパワポで書かれた章もあり、より前衛的なスタイルの作品だ。著者はスティーブ・ジョブズの元カノらしいと聞いて、納得させられるものがあった。


 この作品は去年のピューリッツァー賞受賞作で、訳者は谷崎由依さん。谷崎さんはご自身の作品でも文學界新人賞を獲った才媛。昨年は化学工場の爆発とそれに抗議する民衆暴動を描いたインドラ・シンハ『アニマルズ・ピープル』の訳書を刊行された。いずれも非常に読みやすいので興味を持たれた方はご一読を。