暗黒舞踏と貞子と日本人

 昨日は久々に上田服飾専門学校にて、ゴシックロリータ論の授業をやりました。夏休み明けの一発目の授業です。正課の授業では課題制作をやったのですが、課外の授業ではちょっとイタズラ心を起こして、60〜70年代アングラ文化を解説。三島由紀夫を中心に、土方巽細江英公美輪明宏横尾忠則寺山修司などを解説。学生には馴染みのない固有名詞ばかりだったかもしれません。


 面白かったのは話の流れで横尾さんのトレードマークの旭日旗の話をしたところ、全員がきょとんとしていたこと。私以上の世代なら旭日旗を見ただけで


 海軍旗 > 軍艦マーチ > パチンコ屋 >>>> 泥臭い、レトロ、過剰装飾、キッチュ


 ……といったイメージがすぐ浮かぶのですが、若い世代は「守るも攻めるもクロガネの」という軍艦マーチも、それがパチンコ屋で鳴ってる情景も知らないのです。嗚呼、昭和は遠くなりにけり。いろんなものが遠くなっていきますね。

軍艦マーチ
http://www.youtube.com/watch?v=A75AQgDBtJI


 暗黒舞踏も当然ながら学生は知らない。で、映画の「リング」に出てくる貞子が井戸から出てくるときの、あの動き方が舞踏だよ、というと初めて「へえ」という顔をしてくれました。いまや貞子はそういう文化史的な意味でも大きな役割を担っているので、今後も活躍を続けて欲しいものです。ちなみに「リング」リング2」で貞子役をやったのは伊野尾理枝さんといって、寺山修司の流れを汲む「万有引力」という劇団の方。彼女の振りつけた舞踏が見られるのはこちら。

寺山修司長編叙事詩 李庚順 
朗読=井内俊一 舞踏=伊野尾理枝
http://www.youtube.com/watch?v=PMb-hieqVNk


 ……と、そんなツイートをしたところ、こんなツッコミいただきました。

新川貴詩 ‏@shinkawa_takash 以前、鳥取でダンスワークショップを見た際、参加者の大半が中高年の農家の方で、みなさん重心が低くて体の動きがぶれなくて感心しました。

開発チエ ‏@ChieKaihotsu 土方巽の舞踏は日本的農作業に由来すると、多くの批評家が言ってたもんだす。


 暗黒舞踏はガニ股、短躯の日本人体型、しかも「かがむ」姿勢を日常で重んじてきた日本人だからこそできる動作を集大成した、突然変異的な踊り。そういう意味では、基本的に八頭身でデザイン画を描かされるファッションの世界とは真逆のもので、究極のアンチモードを教えてしまったのかもしれませんね。それにしても、七輪での煮炊きとか稲刈りとか和式便所とか、そういう「かがむ」動作自体、近年の日本人の身体の中からは消えつつあります。いまや八頭身のまっすぐ立ってる身体の方が、若者にとっては自然なあり方なのかも知れませんね。


 ちなみに土方さんの孫弟子にあたる大谷燠さんのインタビューによると、実際の舞踏の振り付けでは、死刑台に上るときの足取りや、お年寄りの手の動きなんかも参考にされたようです。やっぱり60〜70年代アンダーグラウンド、面白いですよね。

大谷燠さんインタビュー
http://www.clippinjam.com/volume_29/cc_interview_01.html