小林頼子さん『庭園のコスモロジー』

 フェルメール研究で有名な小林頼子さんから新刊『庭園のコスモロジー』のご恵贈があり、自分みたいな変チクリンの、サブカルと美術の中間みたいなことやってる評論家に送ってこられて、なんかの間違いじゃないかと思って中身を見たら、あれま、これ面白そう! 口絵の時点で面白い。グロテスクの絡みでよく出てくるブオンタレンティの洞窟とか、まるで仏画みたいなパレルモのキリスト降誕図とか。死の勝利とか死の舞踏ってのはよく見るけど、髑髏が植物栽培してる《死の庭》なんてのも出てくる。へー、へー、へー。


 編年体で庭園の歴史を追った庭園史の本ではなくて、テーマごとに古今東西の庭園を自在に往還するものになってるのも面白い。序章は古代メソポタミアの楽園に始まり、エデンの園、サロモン・ド・コーの人工楽園へと続く。めざすは人が何を理想の楽園と捉えてきたか、つまり一種のユートピア論としても読める。中身は庭園を形づくる門や塀、泉や迷宮といったモチーフを振り返る形で進行。そのうち幾つかをツマミ食いすると、カフカにおける「門」とは何か、エデンの園にはどんな植物が生えていたか、洪水神話と庭園の噴水の関係、映画「シャイニング」にはなぜ迷路が出てくるか、などなど。


 迷路はゴシック聖堂にはつきもののモチーフで、ゴシック方面の皆さんはこの章だけでも立ち読みすると面白いかも。洞窟の章では狂王ルードヴィヒ二世の話や、上田のゴスロリ論の授業でも取り上げたブオンタレンティの洞窟の話も。そんなわけでゴシック&ロリータ関連クラスタには嬉しい一冊になっています。斜め読みの段階でなんですが、庭師を「楽園を維持する者」と見て書かれた一章には「なるほど!」と。昔ピーター・セラーズ主演で不思議な救世主的な庭師を描いた「チャンス」という映画があったけど、なんであの主人公が庭師なのかやっとこれでわかった。


 そんなわけでいろいろ面白い本なので、不思議なこと、奇妙なものが好きな人にはお勧めの一冊だと思います。澁澤さんのファンにもお勧めかな。

小林頼子『庭園のコスモロジー』(青土社)
http://www.amazon.co.jp/dp/4791767608