京都市芸大博士展:入澤あづさ、長久保怜美、金秀娟

 京都市芸大の博士展(京芸akcua、〜 2月9日)に行って参りました。既に一昨日のエントリでもご紹介しましたが、下が入澤あづささんの作品。伝統的な乾漆の技法、つまり有名な阿修羅像なんかと同じ、漆と布でできている。中心部分の貝は本物。漆で作ったものに貝を貼り合わせるというのは、これまた伝統的な技法の一つ「螺鈿」と同じ。けれども入澤さんの場合、よく見ると伝統的な乾漆とは発想が逆。螺鈿は人工の器の表面を貝で加飾するもの。ところが入澤さんは逆に貝の形にできるだけ忠実に、その形を乾漆で延長するんですね。




 で、こちらは長久保怜美さんの作品。洋画科の人なのに日本画材料も交えたミクストメディアで、岩絵の具とか膠とかが使ってある。緑青の発色とかって油絵の具では再現不可能なので、かなり独特で見応えあります。また、描法にしても日本画的で、いわゆる骨描きをした線描が入っている。画面右上の昆虫の脚みたいなモチーフは、肥痩のついた線描です。京都芸大は以前にも三瀬夏之介さんという「日本画滅亡論」を説いた日本画科を生んでいますが、さすが京都芸大だな、と。



  最後に金秀娟さんの作品。器の底からドライアイスの霧が立ち上るという作品なんですが、器が凸凹に作ってあるので、じっと見てるとそれが湖に見えたり山や谷に見えたりして、霧の立ちこめる山水画みたいに見えてくるんです。いっけん地味な作品だけど、霧が時々刻々と表情を変えていくので、これが結構飽きないんですね。器を大きな世界に見立てるのは、松井紫朗さんの近年の作品とも通じる技法ですが、金さんの方がより強いワビサビの美意識を感じます。



 こうして見るといずれもどこかで東洋的な美意識と関わりのある作品が多いですね。これは一体なんでしょうか。金さんの作品にしても、器を大きな世界に見立てるのは、実は器の世界の伝統技法にあるんですね。東京の美術ではミヅマさんを中心にド派手な「奇想の系譜」の現代版みたいな作家たちが活躍してるんですが、どちらかというとワビサビの傾向が強いのが京都風なのかしらん、などと思ってみたり。卒展シーズン、まだまだ続きます。