『真夜中の博物館 美と幻想のヴンダーカンマー』まえがきの一部を公開!

 そんなわけで、じりじりと内容が明らかになっていく拙著なのですが、前書きの部分の一部をご紹介します。この部分は帯文にも記されているものなので、まあこのくらいなら公開しても版元さんから怒られますまい。この本は『真夜中の博物館』というタイトルの通り、実に種々雑多な品々を集めた本になっています。そのようすを述べたテクストがこちら。

「古墳の隣に現代美術を並べ、ホラー映画とインスタレーションを併置し、パフォーマンスのなかに宗教儀礼を見いだし、コックリさんと仏蘭西の前衛芸術を比較すること。十五世紀の欧州貴族たちの蒐集品を収蔵した私設博物館「驚異の部屋」のように、ジャンルの枠を取り払い、種々雑多な作品群を併置して眺めてみること。そうした混乱と錯乱の果てにある恍惚の中にこそ、芸術の本当の面白さがあると私は思っている」


 実はこの文章、比喩でなくてかなり直接的な本文の要約になっています。古墳と現代美術、コックリさんとフランスの前衛美術がどう関係するのかと訝しく思われる方も多いのではないかと思いますが、本当にそういう内容なのです。特に奇妙に思われるのは古墳じゃないかと思いますが、こんな奇妙なものがモチーフとして登場してきた背景には、ちょっとしたわけがあります。実は私は、すぐ近所に古墳のある街に住んでいるのです。


 私の住んでいるところは実は古墳の非常に多い街で、私の母校の大学の構内にも、実は古墳が一基あります。この古墳はクリスチャン作家として知られる遠藤周作の初期作品「黄色い人」のなかにも重要なモチーフとして出てくるのですが、私がこの本を読んだのは中学生の頃。まさかその時は自分がまさにその古墳のある学校に通い、古墳のすぐ近くに住むなどとは、夢にも思っていませんでした。


 私が古墳に対してオブセッションを持つようになった背景には、概ねそういう事情があります。最近では古墳がブームになって、古墳のゆるキャラとか古墳めぐりばかりしている美女とか、いろんな方が出てくるようになりましたが、昔はこういう「古墳萌え」なんて、本当に全然理解されませんでした(というか、いまでもほとんど理解してもらえませんし、あまり人前で喋ることもありません)。


 そんなわけでこの本は、いわゆる美術業界的な文脈とか動向とか、そういう他人の視線をいっさい無視して、ひたすら自分の好きなものだけを、これでもかとばかりに詰め込んだ本になっています。是非皆さんも楽しんで、最後までお読みになっていただけたら幸いです。乞うご期待!

樋口ヒロユキ
『真夜中の博物館 美と幻想のヴンダーカンマー』
アトリエサード刊、予価2500円+税
5月上旬刊行予定
http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfyji500/shincho.html