中島祐介歌集

知人の歌人に中島祐介という人がいて、時折歌集を送ってくださるのですが、新作が面白かったのでご紹介しておきます。タイトルは『予測変換機能による(コンタクト)インプロヴィゼーション』。全体は二部構成になっており、第一部は携帯電話の予測変換機能を使って、即興的に詠まれた歌を集めたもの。「予測変換機能によるインプロヴィゼーション」です。

日本語のニュースを待っている遠く離れた国のことでも
戦力になれないままの僕たちは唯一の約束も守れず
折り畳み式携帯を開くたび光の粒子にならむ少女は

そして第二部は、「予測変換機能によるコンタクトインプロヴィゼーション」。ここではインプロヴィゼーションの前に「コンタクト」がついています。コンタクトインプロヴィゼーションとは何かというと、二人以上のダンサーが、お互いの体を接触させて踊る即興ダンスのことで、たとえば関西では「コンタクトゴンゾ」という二人組が有名です。ここではそこからヒントを得て、予測変換で作った短歌を他人の携帯に送り、連歌形式でつなげていった連作が披露されています。連歌というコンセプトの性質上、紹介するならすべてを紹介しなければならないので、ここでは省きます。

アトランダムに作ったにもかかわらず、案外叙情歌らしきものができあがってしまうというのは、ある種の皮肉めいた結果です。いくら叙情に見えても、結局それは順列組み合わせの産物に過ぎないのですから。この21世紀に叙情というものがありえるとしたら、こうした無機的な順列組み合わせと、軽佻浮薄なメールのやり取りの産物に過ぎまい、という、詠み手の悪意みたいなものもほの見える、ほろ苦い歌集だと思います。著者へのご連絡は下記からどうぞ。

http://d.hatena.ne.jp/theart/