球体関節人形作家、清水真理個展@乙画廊

 乙画廊で開催中の清水真理さんの個展ですが、明日までです。30体もあって非常に見応えのあるものになっています。普段人形を見る習慣のない現代美術系統の方にも是非ご覧いただきたい展示です。清水さんの人形はマトリョーシカのように、人形の中に人形があるという独自な様式なのですが、この内部の人形が一つのジオラマになっていて、天国と地獄やメリーゴーランドの情景が描かれています。内部のジオラマは非常に緻密で、実に見応えがあります。


 彼女の人形にはカソリック美術的な雰囲気、なかでもバロック期のねじくれたグロテスクな印象がありますが、これは単に奇を衒った雰囲気だけのものではありません。実際に彼女は殉教したキリシタン天草四郎の生地で生まれていて、展示のために訪れたイタリアでそのルーツとなる美術を見て、さらにその作風を深めたのです。また、彼女の人形には聖と俗が混在するかのような独特の雰囲気がありますが、実際に彼女はキャバレーオーナーと仏師の血の両方を引いています。このように彼女の人形は非常に強い物語性、私小説性を孕んでいるのです。


 コンセプトとは言い換えれば物語であって、実際デュシャンがコンセプトという言葉で示そうとしたのは、かつてキリスト教美術のなかに存在した物語性のことでした。たとえば彼が代表作の《大ガラス》のなかで示したのは「3次元と4次元ですれ違いを演じる男女の物語」でした。その背後には妹のシュザンヌに対する近親相姦的な恋慕の情が秘められていて、いっけん抽象的な作品に見えながらも、実はきわめて私小説的な構造を孕んでいることで知られています。


 こうした意味で清水真理さんの人形はまさにコンセプチュアルな作品であり、しかも自分の生育史という「切れば血の出るコンセプト」を持っています。普段人形と関わりのない方や「人形なんて」とバカにしている方にこそ見ていただきたい展示というのはそういう意味です。明日までですので是非、万障お繰り合わせの上ご覧ください。

清水真理 人形展 -Epiphany-
2012年11月23日(金)〜12月1日(土) 会期中無休
11時〜18時 (土・日 11時~17時)、入場料\500
http://oto-gallery.no-blog.jp/otoblog/2012/11/epiphany_201211.html