劇団やなぎみわ
これもまた古い話で恐縮なのですが、せんだって京都芸術センターの茶室「明倫」で、3月27、28日に催された、やなぎみわ席主の茶会「桜守の茶会」について、ちょっとここにメモを残しておきます。私が参加したのは28日の最終回、6時からの茶会でした。
書院には三連祭壇画のように額装された《マダムコメット》(2005)と、鏡の上に置かれた《老少女面》(2005)。いずれも大原美術館有隣荘で開催された展覧会「マダムコメット」(2005)のときに展示されたもので、実物を見るのはこれが私は初めてでした。
床の間の花は、小ぶりの桜を一本丸ごと伐って、大きな瓶に生けたものに、新芽を吹いた柳の枝を絡めてあります。季節の桜に、席主の名前と同じ「やなぎ」をかけたものでしょう。お菓子は道明寺で作った「柳桜」というお菓子で、もちろんこの席のために作られたオリジナルなものです。
ところが茶席の開始早々、招待されていないはずの祇園の客が、生けてある桜にイヤミを言い始める。どこから持ってきはったんどす? と。これは京都ならではのイヤミなんですね。と思ったら、次から次に客同士がイヤミ合戦を始める。やれ祇園の言葉は面白いですなとか、私は西陣の者なんですがとか、私は地元の室町なんですけど、とか。京都ってホントに狭いところで私はああだ、あそこはこうだと言い合ってて大変だなぁ、と胃が痛くなってきます。
ふと気がつくと、最後は席主であるやなぎみわが、どこかへ引っ込んでしまって帰って来ない。招かれざる客は相も変わらずイヤミ合戦を続け、桜の下におばあさんの幽霊が出る話だの、桜のしたに何かが埋まっている話だの、茶席にふさわしくない話柄ばかりを展開する。一体どうなるの? と思っていたら、いままで声高に喋っていたメンバーが全員、いっせいに唱和するんですね。
さまざまなこと思い出す桜かな(芭蕉)
実はこの茶会、参加している客のうち、私の見た会では少なくとも4人がサクラ。サクラと桜をかけた茶会で、台本も演出もやなぎみわが手がけたという、芝居仕立ての茶会だったのでした。出演は劇団ストロークロックの中嶋やすき、劇団Wandering Partyの吾郷賢(あごうさとし)ほか。いわば「劇団やなぎみわ」といったところです。
のちに彼女からもらったメールによると、今後もお芝居はやってみたいそうで、現在はその準備中、今回の茶会はテストパターンとしてやってみたものだったのだとか。彼女はもともとお芝居好きで、唐十郎さんや寺山修司、維新派などのアンダーグラウンドな演劇が大好き。一体どんなものができるのか、いまからとても楽しみです。ちなみに、この茶会では非常にたくさんの歌が会話のなかに出てきたので、最後にそれをご紹介しておきましょう。
みわたせば柳桜をこきまぜて京ぞ春の錦なりける(素性)
咲けば散る咲かねば恋し山桜思ひたえせぬ花のうへかな(中務)
わきて見む老木は花もあはれなり今いくたびか春にあふべき(西行)
願わくば花の下にて春死なむその如月の望月のころ(西行)
さまざまなこと思い出す桜かな(芭蕉)