吉村良夫さんのこと
前回から少し間が空きましたが、吉村良夫さんのことについて今日は書きたいと思います。前回のブログでご紹介した仏文学者、大野英士さんからご紹介いただいた、美術評論家の方です。
吉村さんはもともと朝日新聞社の大阪本社で二十年以上にわたり、美術記者を続けて来られたという方です。早期退職制度を利用して定年より一足先に渡仏、彼の地の文物に親しんだのち、帰国後いくつかの大学や短大で教鞭を執りながら、美術評論家として活動して来られたという方です。末冨綾子さんや大野英士さんとの交流は、そんなパリ時代に生まれたものなんだそうです。
http://d.hatena.ne.jp/higuchi1967/20100509
http://d.hatena.ne.jp/higuchi1967/20100508
吉村さんは大野さん経由で私の書いたものをご覧になってお手紙を下さったのですが、そこにはここに記すのがおもはゆいほど、熱い激励の言葉が書き連ねてありました。物書き生活を始めて十五年、こんなに熱心な励ましの言葉をいただいたことはありません。以来、吉村さんとは「文通」、メールでなく本当の文通を続け、今日にまで至っておりました。やっとこのたびお会いすることができて、本当に嬉しかったです。
席上では実に多方面の話を聞きましたが、なかでも一番面白かったのはアート界の話より、向こうの肉屋の話でした。向こうの肉屋はおばあさんなんかが相手だと、ソーセージを切り売りしてくれるらしいんですね。ソーセージ一本、ではない。その一本をさらにスライスして、二切れ、三切れと売ってくれるんだそうです。で、こちらが真似して「三切れください」というと「ハァ?」というような顔をする。昔なじみの客でないと、そういう売り方はしてくれないんです。
私はこの話を聞いて、パリジャンってのは京都人に似ているな、と思いました。華やかな文化で有名だけど、実は暮らしぶりは吝くって、顔なじみには気安いが、見知らぬ人間にはイヤミで冷淡。その強固な同質性が、文化的な成熟をじっくりと育んでいく。やっぱり宮廷のあった古都の文化というのは、世界じゅうどこでも似てくるのでしょうか。自分には外遊の経験がないので、実に面白く拝聴しました。
吉村先生の手紙を拝見したりお話を聞いたりしていると、畢竟、美術評論というのは文明批評でないといけないんだな、と強く思います。一生懸命書いてはいますが、自分の批評はそういう意味でまだまだです。吉村先生、今後ともご指導、ご鞭撻よろしくお願いします!