坂本夏子さんのこと

大阪の国立国際美術館で「絵画の庭」展が始まりました。ゼロ年代に登場した絵画の流れを振り返りつつ、ここ数年に登場した新人を紹介するショーケース的な意味合いも強い、大型の展覧会です。地下2階、3階の両方を使った大規模なもので、目玉としては草間弥生さんの新シリーズ、奈良美智さんのいくつかの作品、そして関西には滅多に来ない会田誠さんの代表作、などなど。そしてマイクロポップに連なる多くの作家群がこれに加わります。

http://bit.ly/6Se5az

ゼロ年代はご存知の通り、日本ゼロ年とスーパーフラットで始まり、マイクロポップで終わった10年間、といっても過言ではありませんが、この展覧会は「その先」が一体どうなるのかを伺う上で、非常に重要になる展覧会だろうと思われます。どれもいろいろ面白かったのですが、個人的に非常に強い興味を抱いたのは、坂本夏子さんの作品でした。坂本さんは2ちゃんねるに「油絵界のアイドル」とスレが立つほどかわいらしい方ですが、まぁなにせ卒業したばかりの若い美大生なので、そこはこの際スルーして、問題はその作品です。

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この、異様にデカいぐにゃぐにゃした作品を、彼女がどうやって描いていくか、というプロセスが非常に面白い。彼女はまったく全体の構図を決めず、この肉片のようなタイル状のパターンを一つひとつ描いていき、基本的には一度描いたら描き直さない。要所要所で帳尻を合わせながら、結果的に全体像ができあがってしまう、というのです。

彼女の作品には溺れている人とそれを見守る人が出てくる作品もあるのですが、これもまた「溺れている人とそれを見る人のセットを描く」という「ルール」だけが先に設定され、全体がどうなるかは当人も描き終えてみるまでわからない、というのです。つまり、全体の構想が先にあるのではなく、小さな部分の「ルール」だけが先にあり、全体は「ルール」に従った結果、なかば偶然に生み出されてくるわけです。

これは、非常に面白いと私は思います。以前紹介した森本絵利もまた、創作の「ルール」だけを先に設定して制作していく作家ですし、広島現代美術館の「一人快芸術」展にも、これと似たような方法論で制作する作家たちが、数多く紹介されています。個人の幻想でも、事物でもなく、なにか別種の「ルール」を設定し、そこからボトムアップで作品を作っていく。そこには新しいアートの方法論のようなものが隠されている、と思います。これは易で作曲したジョン・ケージのような、完全にアトランダムな方法とも異なっています。むしろフラクタル幾何学とか可能世界論ともつながるような、個人の幻視とかイマジネーションを介さない、新しい美術の在り方がほの見えているような気がします。

http://d.hatena.ne.jp/higuchi1967/20091201/1259647786

坂本さんの作品はものすごく大きくて、作品の前に立っていると、自分がその歪んだ世界に取り込まれるような錯覚を起こします。是非、ご自身で作品の前に立ってご覧になってください。

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追記
アトリエサード刊『TH』に、この坂本夏子さんを含むグループ展「絵画の庭」についてのレビューを執筆しています。興味をお持ちの方は是非ご覧ください。
http://www.amazon.co.jp/dp/4883751147