後藤靖香さんインタビュー@clippin jam
今年の春、草間弥生さんや奈良美智さん、会田誠さんらも参加した大規模なグループ展「絵画の庭」(国立国際美術館、大阪)で、ひときわ異質な存在感を放った画家、後藤靖香さんのインタビューを、webマガジン『clippin jam』に発表しました。
後藤靖香さんの誕生日は、建国記念日の2月11日。名前はご両親双方の一字を取ってつけられたそうですが、偶然にも「靖香=靖国の香り」と読むことができます。おじいさんは特攻隊員。大伯父さんは南方で戦死。生まれたのは広島市内で、身内には被爆された方もいらっしゃる。あまりにも克明に「戦争」を刻み込まれた生い立ちです。
けれども、1982年生まれの後藤さんは、いっぽうで紛れもない現在を生きる人でもある。中学生時代には実際に自分でBL系マンガを描き、日本で一番最初にできた現代美術専門の美術館、広島現代美術館に入り浸り、長じては京都に出て、京都精華大で絵画を学んだ。そして現在、彼女が手がけている作品が、BL系の腐女子タッチで描かれた、独特の「萌える戦争画」です。
「戦争」「萌え」「現代美術」という、まるで三題噺か判じ物のような組み合わせですが、実は現代美術と戦争の間には、非常に強いつながりがあります。現代美術が盛んになる土地というのは、基本的に戦火でそれまでの文化財を失った場所が多いのです。たとえば空爆でさんざんにやられたドイツがそうだし、日本だと広島がそうです。ローマの遺跡がそのまま遺ったイタリアだとそうはいかず、圧倒的な予算が文化財の修復に使われ、あとは一過性のビエンナーレを開催して終わり、という状況です。
広島に日本で一番最初に現代美術館ができたのは、ある意味で理の当然で、原爆で「美」が消滅した都市だからこそ、現代の美を収集しようという気運が高まったのです。その意味で、後藤さんが現代美術に進んだのもまた、やはり戦争のなせるわざであったと言えます。
昔「7月4日に生まれて」という映画がありました。7月4日のアメリカ独立記念日に生まれ、愛国心いっぱいに育った青年が、ベトナム戦争に出征して負傷を負い、悲惨な帰還兵の生活を経験するという話です。オリバー・ストーン監督、トム・クルーズ主演の作品でした。後藤靖香さんの人生もまた、これに似た数奇な運命を辿っています。原爆で美を失った都市、広島に生まれ、BLマンガと現代美術という二つの方法で「現代の美」を追求しようとした彼女は、まさに広島という都市が生んだ作家であり、「出るべくして出た」作家であったと言えるでしょう。
とはいえ、彼女も一直線にいまの路線へと進んだわけではありませんでした。インタビューではその道のりを辿っており、おそらくは現在web上で見られる、彼女のもっとも詳細なバイオグラフィーになっていると思います。どうぞご覧になってください。
奈良美智さんも絶賛した、
後藤靖香さんの「萌える戦争画」。
http://www.clippinjam.com/volume_45/cf_top.html